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午後の授業には身が入らなかった。
(ユージェニーは気丈に振る舞っているが、内心は動揺しているはずだ)
レイクリードとユージェニーには相思相愛の恋人同士といった雰囲気はないが、互いに尊敬し合い愛しみ合っているのがはたから見ていても感じ取れる。
この学園に通う貴族の子女は皆、自らが支える次代の国王と王妃がこの二人であることを喜んでいる。たとえ帝国の皇女がどんなに素晴らしい女性であったとしても、ユージェニーを押しのけるような真似をすればこの国の令嬢達の間に禍根を残すだろう。
「ノースヴァラッド王はこんな強引な真似をして、目に入れても痛くないほど可愛がっている王女が針のむしろになるとは考えないのか?」
居ても立ってもいられず、休み時間にジュリアンを捕まえて尋ねてみた。彼は王妃の甥でありフォックセル公爵家の嫡男だ。詳しい話を聞いているかもしれない。
「それが、国王は王女のことを『どんな相手であろうと魅了して誰からも愛される』存在だと思い込んでいるらしくて、むしろ可愛い王女を嫁がせてやるんだから光栄に思えって態度のようだ」
「はあ? なんだそれは」
テオジェンナは呆れた声を出した。一国の王がそんなお花畑思考だとは思いたくない。
「王女と顔を合わせれば殿下の気も変わるって自信満々で送り出したらしい」
「それほどの美女なのか? だが、ユージェニーとて美しさに不足はない。第一、殿下は容姿で人を選ぶような人物ではないぞ」
「ああ、わかってる。安心しろ、一部の貴族がごねているだけで、王宮は皆ユージェニー様派だ」
それを聞いて少し安心した。テオジェンナの立場では何もできないし、ことが穏便に過ぎ去るよう祈るしかない。
「北の国の王女か……」
自分の席に戻って、テオジェンナは国王に溺愛されているという王女を想像した。
彼女が真っ当な常識を持ち合わせており、なんの瑕疵もない婚約を引き裂くような真似をしない人物であってくれればよいのだが。
(ユージェニーがどれだけ不安に思っていることか。無理もない。私だって、もしも小石ちゃんがどこかの国の王女と無理やり婚約させられたりしたら……小石ちゃんが無理やり?)
テオジェンナはカッと目を見開き椅子を蹴倒して立ち上がった。
ちなみに本日最後の授業中である。