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活気づく港町、大小無数の船がひしめく湾に浮かぶ船の一つに、男が乗り込む。
「おう。どうだった?」
船倉で積荷を見張っていた男が、戻ってきた男に尋ねた。戻ってきた男は応えて言う。
「実行日が決まった」
「へえ。じゃあようやく出航できるな」
「ああ。それはもう必要ねえから片付けていいってよ」
男が指差し、樽に縛り付けられていた老人が力なく顔を上げる。
「了解。悪く思うなよ、爺さん」
刃物がぎらりと光り、老人に迫った。
だがその時、船が揺れ、大量の人間の足音が船底に響いた。
「いたぞ! 捕らえろ!」
船倉に雪崩れ込んできたのは、密輸や違法な売買を取り締まる港湾兵団の兵士達だった。
狼狽えた男達はなすすべなく縄にかけられ、捕らえられていた人々が解放される。老人も縄を解かれ、兵士に支えられて立ち上がった。
「大丈夫ですか?」
「……が……ない……」
老人は衰弱しており、声もかすれていたが、それでも必死に何かを伝えようとしていた。
「……生徒が、危ない……」
***
「——危ないところだった」
朝の生徒会室にて、登園してくるなり侯爵令嬢が真剣な顔つきで切り出した。
「門のところで小石ちゃんを見かけたから挨拶をしようとしたんだ。だがしかし! 次の瞬間、小石ちゃんが欠伸をしたんだ! 世界一可愛い欠伸を見てしまった! あまりの愛らしさに私の全身の血は煮えたぎり身体中を駆け巡った。血管が破裂しなかったことが奇跡だ! 全身の穴という穴から血を噴き出して倒れても不思議ではなかった!」
「ケイン、そっちの書類取ってくれ」
「ん。ああ、これサイン漏れてる」
「うわ。明日提出じゃん。忘れてた」
ジュリアス、ケイン、ニコラスの三人は黙々と仕事を続けた。
「あれ? 殿下とユージェニーは?」
生徒会室に三人しかいないことに気づいて。テオジェンナはきょとりと目を瞬いた。
「お二人とも、本日は遅れるようだ」
「へえ。何か公務が入ったのかな」
テオジェンナも自分の席について今日の仕事の確認を始めた。
ささっと今日の段取りを決めると、皆自分の教室へ向かうため立ち上がる。
テオジェンナが生徒会室を出ようとした時、ちょうど遅れて来たユージェニーと鉢合った。
「おはよう、ユージェニー。どうした? 顔色が良くないぞ」
「……おはよう。なんでもないわ」
ユージェニーはそう答えたが、いつも美しい顔には暗い影が差していた。何かがあったに違いない。
「ユージェニー?」
「……後で話すわ。今は授業に出なければ」
そう言われては追及することもできず、テオジェンナは友人を心配しながらも自分の教室に向かったのだった。




