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「さあ、そろそろお目覚めの時間かしら?」


 楽しげな口調で言う夫人を、ルクリュスがぎっと睨みつけた。


「ふふふ……手も足も出ない男を眺めるのは至上の悦楽ですわ」

「ええ。そうね、お母様」


 不意に、夫人の背後に立ったセシリアが母の首から小瓶をもぎ取った。


「あら?」


 いつの間に移動したのか、ルクリュスはもちろんのこと夫人も目を丸くしてセシリアを見た。

 セシリアは小瓶を手にすると、つんとそっぽを向いた。


「どうしたの? セシリア」

「お母様。余計なことはなさらないで」


 セシリアはチェストの引き出しから木の箱を取り出すと、中から注射器を取り出した。

 小瓶の中の液体を移すと、ロミオに近寄って腕に針を刺す。

 うう、ん、とロミオが呻いた。


「私はお母様の力を借りるつもりはありませんの。私一人で愛しいロミオ様をものにしてみせますわ」

「あらまあ……」


 娘の成長した姿に、夫人はじーんと感激した。


「偉いわ、セシリア。それでこそ私の娘よ」


 夫人が合図すると侍女達が糸を回収する。自由の身になったネズミ達が逃げていった。


「お騒がせしてごめんなさい、ルクリュス様。なかなか楽しかったわ。けれど、まだまだ経験不足ね。私がかつて戦った公爵令嬢や侯爵令嬢の足元にも及ばないわ」


 黙って睨みつけるルクリュスの横を通り過ぎざま、夫人は囁くように言った。


「大切な者を守るためにはもっと狡猾にならなくては。私程度に翻弄されていては駄目よ。世の中には私より遥かに恐ろしい相手がいるのよ……そう、私がかつて敗北を喫した公爵令嬢のような、ね」


 夫人はふっと自嘲の笑みを浮かべた。


「さすがは名門フォックセル家の令嬢。悔しいけれど格が違ったわ」


 その公爵令嬢ってもしかしなくても現王妃なのでは? とルクリュスは思った。


「彼女の兄で今は公爵となった彼にも侯爵令嬢の婚約者がいたわ。彼女とはいい勝負を繰り広げたものよ」


 昔を懐かしむように話す夫人だが、ひと世代前の泥沼事情などルクリュスは知りたくない。自身の父母が巻き込まれなくてよかったと思うだけだ。


 その時、テオジェンナが「うーん……」と唸って瞼を震わせた。

 どうやら薬が切れたようだ。


「では、失礼するわ」


 夫人が部屋を出ていくのとほぼ同時に、テオジェンナが目を開けた。


「ふえ……? るくりゅしゅ?」

「おはよう、テオ。ほら、兄さんも起きて」

「え……私は眠っていたのか。……そうか、この空間の可愛さに耐え切れずに意識を……」


 頭を抱えるテオジェンナの横で、ルクリュスに揺り起こされたロミオが大きな欠伸と共に身を起こした。





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