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「お話中ごめんなさぁい」

「お母様?」


 入ってきた母親を見て、セシリアが眉をひそめた。


(出た。女郎蜘蛛の親玉……)


 ルクリュスはとっさに身構えた。

 だが、身をくねらせて近寄ってきた伯爵夫人は、流れるような動きでテオジェンナの顔にハンカチをふわりとかぶせると、隣の席のロミオの首筋に注射針を突き刺した。


「なっ……!」


 あまりの早業に驚愕するルクリュスの前で、テオジェンナがぐにゃりと椅子の背にもたれかかった。

 次いで、ロミオがテーブルに突っ伏した。


 テオジェンナはすうすうと寝息を立てている。おそらく、ハンカチに薬が染み込ませてあったのだろう。


 一方、薬を打たれたロミオは熱にうなされるように小さな呻き声をあげている。


「何をした!?」

「ほほほ。ちょっとした余興ですわ」


 夫人は自らの首に下げた小瓶を見せつけるように揺らした。


「この瓶の中に、ロミオ様に打った薬の解毒剤が入っていますわ」

「なんだと……?」


 ルクリュスは眉をひそめて夫人を睨み上げた。


「こんな真似をして……ゴッドホーン侯爵家を敵に回して生きていられると思っているのか?」


 声を低くして尋ねる。

 ロミオもテオジェンナも侯爵家の人間であり、ゴッドホーン家とスフィノーラ家はともに軍部で覇を競う家柄だ。

 ヴェノミン伯爵家程度、その気になれば潰すことなど造作もない。


「あらぁ、怖ぁい。でもぉ、もしも怒られちゃったら学生時代のお友達に相談しちゃお。今は立派な公爵になった彼とか、隣国に婿にいった第三王子殿下とか、昔うちに留学に来ていた帝国の皇太子とか……」

「くっ……この女郎蜘蛛がっ!」

「それにぃ、ロミオ様がきっと庇ってくださるわぁ」

「は!?」


 夫人の言い分にルクリュスは不快げに眉を跳ね上げた。何を言っている。薬を盛られた張本人のロミオが犯人を庇うはずがないではないか。


 だが、夫人は笑みを深くしてこう告げた。


「ロミオ様に打った薬は、目覚めた時に一番最初に目に入った異性の虜になる効果があるの」

「馬鹿なっ……」

「だから、セシリア。ロミオ様のそばにいなさいな」


 夫人が娘に命じ、ルクリュスが邪魔できないように二人の侍女がセシリアとの間に立った。

 ルクリュスはぎりりと歯を食いしばった。




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