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一方、ルクリュスはその壺をじっと睨んでいた。
(あの紋様、どこかで見たことが……はっ! そうだ、思い出した! あれは極東の少数民族ユヴォンに伝わる恋愛成就の壺!!)
ユヴォン族の年頃の娘は、好きな相手ができると毎夜あの壺の中に向かって好きな男の名を呼ぶ。
それを千夜続ければ恋が叶うという代物だ。
(迷信だとは思うが……確か、途中で持ち主以外が壺に声をかけるとその恋は叶わないんだっけ)
さりげなく近寄って壺に何か言ってやろうかと思ったが、ルクリュスが気づいたことを察したのか、セシリアが席を立ってチェストに近寄った。
「お部屋の雰囲気に合いませんし……別の場所に仕舞いますわね」
「え~。わざわざ片づけることないよ~。ね? 兄さん」
「ん? おお。そうだな」
ロミオに話しかけながら、ルクリュスはぱちん、と指を鳴らした。
すると、どこからともなく一匹の猫が現れて、チェストの上に飛び乗ると壺に頭を突っ込んで「なぁ~お」と鳴いた。
一声鳴くと、猫はチェストから飛び降りてどこかへ逃げていった。
「……まあ。いったいどちらから遊びにきたのかしら? 猫さんってば」
セシリアが振り向いてルクリュスを睨みつけた。笑顔が大分引きつっている。
ルクリュスは何食わぬ顔で目をそらした。
「妖精のお家には猫が遊びにくるんだ……私の部屋なんていつの間にか入り込んでいたセミが床に落ちていたことぐらいしかないのに。可愛い子の家にはもふもふが、岩石の家にはセミファイナルがふさわしいということか」
「安心しろ。ルーの部屋にもカブトムシが飛び込んできたことあるから。可愛くても虫が飛び込んでくることはあるから」
「カブトムシと戯れる小石ちゃんなんて可愛い要素しかないだろう! 私なんて庭で茶を飲んでいたらカマキリに威嚇されたんだぞ! やはり小さき生命を愛でるのは可愛い子の役目……私のような岩石は威嚇されるかファイナルされるのが関の山」
「ファイナルされるって何だ?」
妙な自己嫌悪に苛まれるテオジェンナに、ロミオは突っ込みを入れながら溜め息を吐いた。
***
「ふふふ……苦戦しているようね」
部屋の様子をこっそり覗いていたセシリアの母は、愛娘が侯爵家の息子にしてやられるのを見て苦笑した。
「あの子ってば、まだまだ未熟者ねぇ。侯爵家の息子程度に苦戦しているようじゃあ、黙って見ていられないわ」
百戦錬磨の伯爵夫人はそばに控える侍女に命じて愛用の武器を用意させた。
「うふふ。軽ぅーく遊んでさしあげてよ」
妖艶な笑みを浮かべた伯爵夫人は、扉を開けて娘の戦場に乱入した。




