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(小人の花束……?)
テオジェンナの言葉に、ルクリュスは部屋の隅に目を凝らした。
確かに、小さな花が数本束ねられたものが床に置いてある。
(あの小さい花は……二ガムの花! 花が発する甘い香りを長時間にわたって吸い込むと心身の緊張が取れて無防備な状態になるという……)
ルクリュスは脳内で「世界の毒物辞典」の頁をめくった。
暗殺者が事前にターゲットの周辺に仕込み警戒が解けたところを襲う、捕えた敵の捕虜を尋問する時に使うなど、様々な場面で利用される花だが、この国には自生していないはずだ。
(ヴェノミン伯爵家……独自の流通ルートを握っているのか、あるいは秘密の花園を持っているのか……)
ルクリュスはチッと小さく舌打ちした。
ルクリュスの警戒を鈍らせ、あわよくば無防備になったロミオに取り入ろうとしたのだろうが、そうは行くものか。
ルクリュスはダンダンッと、右足を二回踏み鳴らした。
すると、どこからともかく数匹のネズミが現れ、四隅の花をくわえるとどこかへ持ち去った。
「……まあ! 小さな花束はネズミさんの忘れ物だったのかしら?」
セシリアは口元だけ笑いながらルクリュスを睨みつけてきた。
(ひとの家にネズミを連れてこないでくださる?)
(さあて、何のことだか)
腹黒同士、目だけで会話を交わし、ルクリュスは小馬鹿にするようにニヤリと笑った。
「ほら、テオ。しっかりして」
「うう……」
ルクリュスに腕を引っ張られて椅子に座り直したテオジェンナは、これではいけないと自分を叱咤した。
せっかく家に招いてもらったというのに、テオジェンナときたら叫ぶか倒れるか死を覚悟するかしかしていない。これでは貴族として失格だ。
こういう時にはさりげなくインテリアの趣味の良さなどを褒めるのが礼儀だ。
(ルクリュスがテーブルクロスやカップの趣味の良さを褒めていたから、私は何か別のものを……)
あたりを見回したテオジェンナの目に、ふと気になるものが飛び込んできた。
チェストの上に置かれた小さな壺だが、異国風の紋様が描かれており、この部屋の可愛い雰囲気にはいささかそぐわなかった。
「セシリア嬢。変わった形の壺だな。異国のもののようだ」
「え! ああ……そうなんですの。どこの国かは忘れてしまいましたけれど、花瓶にするのにちょうどいい大きさなので置いてありますの」
セシリアは「ほほほ」と笑って答えた。
「くっ……異国から流れてきてこんな可愛い妖精の元にたどり着けたのなら壺も本望だろう! 私が壺なら、いつ割れても悔いはない!」
「おい、泣くなよ」
感極まって涙を流すテオジェンナに、ロミオがどん引きした。




