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 ルクリュスとセシリアが薬物入りのお茶のカップをめぐって攻防を繰り広げている間、テオジェンナは可愛さの満ち溢れた空間で溶解しないように耐えるのに必死だった。


(くああ! この可愛い空間に岩石な自分が存在することが罪深い! いっそ誰か退治してくれ!)


 もちろんお茶会中の侯爵令嬢を狙う輩は存在しないのでテオジェンナを仕留めてくれる者は誰もいない。


(……いかんいかん! すぐに楽になろうとするところが私の悪い癖だ。ロミオのようにどっしりと構えていられるようにならなければ!)


 気を取り直したテオジェンナは、背筋を伸ばして深呼吸をした。

 もしもセシリアがロミオと婚約したら、ロミオとは幼馴染であるテオジェンナとの交流も増えるだろう。いちいち死んでいるわけにはいかない。


(そうだ。私は小石ちゃんのために世界で二番目に可愛い子をみつけるという使命がある。そのために可愛いものを前にしても動じない根性を身につけなくては!)

 せっかくの機会だ。この可愛い空間で心身を鍛えさせてもらおうとテオジェンナは考えた。


(先ずは自然に呼吸をできるようにするぞ!)


 生命維持活動の基本中の基本から取り組み始めたテオジェンナは、目を閉じてゆっくりと息を吸い込んだ。

 静かに、呼吸することだけに集中したテオジェンナだったが、空気の中にかすかに混じる甘い匂いに気づいて眉をひそめた。

 それは本当にかすかで、テオジェンナの軍人の娘としての研ぎ澄まされた感覚と集中力がなければ気づかなかったであろう。


 匂いの元をたどったテオジェンナが目にしたのは、部屋の四隅の床にそっと置かれた、小さな青い花が四、五本だけ束ねられた小さな小さな花束。


 テオジェンナは衝撃に目を見開いた。


(な、な、な、何あれぇ~っ!? なんであんなところにあんな小さな花束が!? 小人さんの仕業なの? 妖精のお家には小人さんが花束を届けにくるの!?)


 小人さんの花束(仮)に心乱されたテオジェンナは耐えきれずに床に倒れた。


「ロミオ! 私はもう駄目だ!! あとのことは頼んだぞ!!」

「なんでいきなり死ぬんだよ? お前の脳内のことはさっぱり理解できねえんだから、死ぬ前に死因を説明しろ」


 心底呆れ果てた口調のロミオに促され、テオジェンナは倒れたまま最後の力を振り絞って部屋の隅を指差した。


「うう……小人さんの、小人さんの花束が……っ」


 テオジェンナは何故か「ぐふっ」と呻いて力尽きた。




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