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(やはり侮れないわね……ルクリュス・ゴッドホーン)


 セシリアは表面上は花のような微笑みを浮かべながら、内心で歯噛みした。


 愛するロミオの弟が生粋の腹黒であることは一目見た瞬間にわかった。

 こいつは同族だと、セシリアの野性の勘がそう告げたのだ。


(ロミオ様のような素晴らしい御方の実の弟が、どうしてこんな性格の歪んだ腹黒なのかしら)


 セシリアがロミオと出会ったのは、一年ほど前のとある侯爵家のお茶会でだった。

 学園に入学する前の子供はお茶会を主催することはできない。ただ、学園に入学している在学生がお茶会を開き、入学前の子女を招いて社交に慣れさせることは推奨されている。

 来年に入学を控えたセシリアの元にもいくつかの招待状が届けられた。

 しかし、そんなに仲良くもない令嬢からの招待は、大抵の場合とびっきり可愛いセシリアを呼び出してよってたかっていびるのが目的だ。

 わかってはいても格上の家からの招待を毎回無視するわけにはいかないため、仕方がなく参加することもあった。

 その日もそんなお茶会だった。


 案の定、四人の令嬢から遠回しだったり直接的だったり、様々な嫌味やら嘲笑やらを浴びる羽目になった。


(本当にくだらないわね……)


 セシリアは相手の程度の低さに溜め息を吐きたくなった。


(可愛い私をいびったって、自分が可愛くなれるわけじゃないのよ? こんなに可愛く生まれた私が、お母様の教えを受けて日夜将来のための知識と技術の修得に励んでいるというのに。この人達は大して可愛くもない上に、できることは複数でたった一人をいびることだけだなんて……)


 内容は聞いていないが、嫌味を言われていることは間違い無いので、セシリアはとりあえず悲しげな表情を作っている。

 弱々しく傷ついたふりをしていれば、彼女達は勝手に満足してくれるからだ。


 しかし、彼女達のなんの意味のないくだらない時間の浪費を思うと、うっかり演技ではなく本心が顔に出てしまいそうになる。人生を無駄にしている彼女達への憐れみが。


(いちいちすべての羽虫を潰す必要はない。こちらが手を下さずとも自滅する。と、お母様もおっしゃっていたわ)


 セシリアは遠からぬ未来、自らの虚飾の羽の重さで潰れるであろう彼女らの、「今だけは」元気な羽音を寛大な心で聞き流してやった。


 しかし、その日のお茶会はなかなかおひらきにならなかった。

 いつもよりしつこい口撃に、流石に苛立ちを隠せなくなってきた頃、事件は起こった。




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