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「と、とりあえずお座りになって」


 気を取り直したセシリアに勧められててテーブルにつく。小花模様の可愛らしいテーブルクロスの上に茶菓子とソーサーが置かれ、香り高いお茶がふるまわれる。


「どうぞ。お口に合えばよろしいのですけれど」

「わあ。さすが、カップもお洒落だし、このテーブルクロスもセンスがいいねぇ~」


 ニコニコと笑顔で心にもない褒め言葉を口にしながら、ルクリュスはテーブルクロスの端をぐっと掴んだ。

 手に力を込め、呼吸を整える。集中しなければならない。勝負は一瞬。


(いざ尋常に——勝負!)


 ふっ、と息を吐くと同時に、ルクリュスは渾身の力でテーブルクロスを時計回りに回すように引っ張った。掴む端を手早く変えて、テーブルクロスを上に載っているものごと回転させる。目にも留まらぬ早業で、だ。


 ロミオの前に置かれたお茶のカップがセシリアの前に移動したところで、何食わぬ顔でテーブルクロスから手を離した。


「ん? なんか今、テーブルが動いたような……」

「気のせいだよ、兄さん。テーブルが動くわけないじゃないか」


 実際に、テーブルは動いていない。動いたのは、テーブルクロスとその上に載っていたものだけだ。


「そっか。気のせいだな」

「ああ。気のせいか妖精のいたずらだろう」


 ロミオといいテオジェンナといい、岩石系は細かいことを気にしないし、鈍い。自身にはないその大らかさがルクリュスは好きだった。


「まあ……ルクリュス様ってば、妙な特技をお持ちのご様子……」


 ただ一人、ルクリュスの早業を見抜いた同族腹黒系のセシリアが引きつった笑顔を向けてくる。もちろん、目は笑っていない。


(特訓の成果だな)


 ルクリュスは自宅に庭で何度も何度も「カップを落とさずにテーブルクロスを上に載ったものごと回転させる技術」の練習に明け暮れた。

 危険生物の巣に足を踏み入れるのだ。新たな技を身につけなければ、大切なものを守ることなど出来やしない。


(お前の思い通りにはさせない……決して!)


 ルクリュスはセシリアにしかわからないように得意げにふん、と鼻を鳴らしてみせた。





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