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皆で話し合っている最中にふと気づいたことがある。
(闇雲に可愛い子を探したって、小石ちゃんレベルの可愛い子なんてみつかりっこない)
テオジェンナ一人が友人や知人に尋ねて回ったところで、狭い世界の情報しか集まらないだろう。
もっと効率よく、広範囲で可愛い子を探す方法はないだろうか。
「お兄様のお嫁さん募集という口実で、「応募者の中から一番可愛い子を選びます」って広告を出せば可愛い子が集まってくるんじゃあ……いや、駄目だ駄目だ」
テオジェンナはぶるぶる首を横に振った。
そんなやり方で集めたら「スフィノーラ侯爵家嫡男の妻になりたい女性」しかやって来ない。
本当はルクリュスのお嫁さんになれる可愛い子を探しているのに、トラヴィス狙いの女を集めてどうする? と、テオジェンナは自分にツッコミを入れた。
その頃、軍部の第二師団に勤めるトラヴィス・スフィノーラは訓練の休憩中だった。
常に寡黙で表情を崩さない彼が珍しくも盛大なくしゃみをしたので、同期のギリアム・ゴッドホーンは「おいおい、風邪か? 珍しいな」と首を傾げた。
ちなみに、ギリアムはゴッドホーン家の六男こと岩石その6である。
如何にして可愛い子を探すか。
テオジェンナは授業中もずっと頭を悩ませていた。
(私に、どこかにいる可愛い子を探知できる能力があれば……っ!)
くっと唇を噛み締めて己の無力さを嘆いているテオジェンナの元に、授業が終わってまもなくセシリアが訪ねてきた。
「是非、テオジェンナ様を我が家にご招待したくて」
はにかんだ笑顔とともに差し出された封筒からはふわりと花の香が立ち昇った。
「妖精の家に……っ?」
テオジェンナは躊躇った。
学園内でのお茶会でさえ形を保つのが大変だったというのに、可愛らしいセシリアの家に行き、可愛らしい空気を吸って、可愛らしさに四方を取り囲まれてしまっては、テオジェンナは為す術もなく崩れ落ちるしかない。
「招待は嬉しいが、スフィノーラ侯爵家の者が貴家の敷地で溶けたり全身の骨が砕けたりしたら、ヴェノミン伯爵家に迷惑がかかるだろう」
「我が家で溶けたり骨が砕けるご予定が……?」
テオジェンナは自らの命の危険とヴェノミン伯爵家の迷惑を考慮して辞退しようとしたのだが、セシリアは困ったように目を伏せると悲しげに声を震わせた。
「申し訳ありません……実は、ロミオ様をご招待するのにテオジェンナ様にご協力いただければと思ったのです……でも、自らの恋のためにテオジェンナ様を利用するだなんてあまりに失礼でしたわ。浅はかな小娘と思ってお許しください……」
「よし! 私でよければ協力しよう!」
テオジェンナは勢い込んで言った。
溶けたり骨折したりする恐れはあるが、それがどうした。
妖精の恋を応援しないなど許されない。骨など勝手に折れればよいのだ。
「よかった。では、この招待状をロミオ様に渡していただけますか?」
「ああ! 任せろ!」
テオジェンナが招待状を受け取ると、セシリアはにっこり笑った。
花が綻ぶような笑顔に、テオジェンナは目元を押さえてよろめいた。
(やっぱり可愛い~っ! この子が世界で二番目に可愛い子なんじゃあ? この子を超える可愛さなど、小石ちゃん以外にいないのでは!? でもセシリア嬢はロミオが好きなんだ。小石ちゃんには別の可愛い子を……はっ! セシリア嬢がロミオと結婚したら、彼女はルクリュスの義姉に!?)
「世界一可愛すぎる姉弟が誕生してこの世のすべての花々が満開になり澱んだ泉が浄化されあらゆる戦乱が集結し罪人が改心してしまう! 我々は奇跡の目撃者になる!!」
「あ。もちろんルクリュス様もご招待いたしますわ」
テオジェンナの暴走妄想には触れず、セシリアは「楽しみです」と微笑んで教室を出ていった。




