24
「……はっ! 私はいったい!?」
「よかった……生き返った」
見事に蘇生したテオジェンナに、ルクリュスは胸を撫で下ろした。
あのまま死なれていたら死因は何と判断されるのだろう。可愛さの過剰摂取による心臓麻痺とかだろうか。
「はうっ? ル、ルルリュクリュシュ!?」
「うん。昨日はありがとうね、テオ」
にっこりと微笑むルクリュスに、テオジェンナの腰が抜けた。
「うわああ! 可愛さで肋骨が軋む! 腰骨が砕け散る! 私の骨はもう限界だ!」
「何故……」
話しかけただけで骨に何らかのダメージを受けているテオジェンナを助け起こそうかどうしようか迷っていると、ルクリュスの背後から誰かが声をかけてきた。
「どうしました? お困りごとですか」
「あ、いえ……」
話しかけただけで限界らしいので、助け起こしたら本当に骨が砕け散るか、もしくはまた死ぬんじゃないかと思い、助け起こすのを躊躇っているという今の状況をなんと説明していいかわからず、ルクリュスは曖昧な微笑みを浮かべて振り向いた。
そこに立っていたのは、まだ若い神父だった。
「おや、貴女は先日の……」
地に倒れて腹を押さえているテオジェンナを見て、ハンネスは手を差し伸べた。
「大丈夫ですか?」
「は……あ、神父様」
ルクリュス以外の顔を見て正気に戻ったのか、テオジェンナがすっくと身を起こした。
「ご心配なく。倒れるのには慣れていますので」
「そうですか……お気をつけください」
神父は静かに頷くと、テオジェンナの傍のルクリュスに視線を移した。
「こちらの方とは初めましてですね。私はコール・ハンネスと申します」
「あ、どうも初めまして。一年のルクリュス・ゴッドホーンと申します」
ルクリュスがぴょこりと頭を下げる。テオジェンナが「可愛いぃっ!」と悶えた。
「仲がよろしいのですね」
ハンネスがルクリュスとテオジェンナを見て穏やかに微笑んだ。
「ええ。幼馴染なんです」
ルクリュスが答えると、ハンネスはわずかに首を傾げた。
「そうですか。お似合いですので婚約しておられるのかと思いました」
「ほげぇっ!」
テオジェンナが奇声をあげてぶんぶん首を横に振る。
「そんなとんでもない! 私なんかがお似合いなんてそんなことがあっていいわけがない! 神罰が当たるぞ!」
「テオ。神父様に向かって神罰とは……」
「何故ご自分などはと卑下なさるのでしょう? スフィノーラ家は名高い貴族ですのに」
「わっ、私は……っ、何よりもルクリュスの幸せを願っている!」
本当に不思議そうな顔で言うハンネスに、テオジェンナは顔を真っ赤にして訴えた。
「ルクリュスには、ルクリュスの次ぐらいに可愛い女の子じゃないと……そう、世界で二番目に可愛い子がふさわしいんです! だから、私はルクリュスの幸せのために、世界で二番目に可愛い女の子をみつけてみせる!」
それが自分の最大の願いなのだと、テオジェンナは己の未練を抑えつけて言い切った。
それを聞いたルクリュスは心の中で舌打ちした。
(世界で何番目だろうが、僕にとっての一番にじゃなきゃ意味ないっていうのに……)
ルクリュスは改めて心に決める。
(テオが良くも悪くも僕の可愛さに翻弄されているのなら、全力で可愛さを見せつけて、虜にし続けてやる!)
かつて、一度は疎んだこともある「可愛さ」を最大の武器として、この強情な自称岩石その8を逃げられないように囲い込んでみせる。
ルクリュスは静かな、しかし熱のこもった眼差しを、実在しない女の子をみつけてみせると豪語する幼馴染に送った。
そのルクリュスをじっと眺めていたハンネスは、ふっと口元に笑みを浮かべた。