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可愛い顔をした少年に恐るべき拷問を加えられたギルベルトは、息も絶え絶えになりながらも気丈に顔をあげた。
「何故だ……っ、どこでそれを手に入れたっ!?」
「秘密を守るのって、とても難しいことですよね……」
ルクリュスは遠くをみつめる目をして、曖昧に言葉を濁した。
「さて、素敵なポエムを首に巻かれたウサギのぬいぐるみがスフィノーラ家に届くか否かは侯爵様の返答しだいですが」
「きっ、貴様ぁっ……!」
ギルベルトはぎりりと歯を食いしばった。
「私はっ、スフィノーラ侯爵家の名にかけて、こんな脅しに屈するわけには……っ! テオジェンナの未来のためにも!」
「『罪の花、咲き誇る偽りの楽園に、彷徨うは我が心……紅の花の道を征きし名も知らぬ戦士達の導きによって、いざ虹の扉を開かん……』」
「ぐはああああっ!!」
ギルベルトは胸を押さえて倒れ込んだ。
「お、おのれ……悪魔め!」
「まあ、今日のところはこのくらいで勘弁してやりましょうか」
地に伏したギルベルトを見下ろして、ルクリュスは悠然と身を翻した。
「それじゃあ、また来ますね。お願いした件については、どうぞ、賢明な御判断を……」
脅し文句の余韻を残しながら扉を閉め、ルクリュスは去っていった。
後に残されたギルベルトは、力なく床に這いつくばることしか出来なかった。
それからもルクリュスはちょくちょくギルベルトの執務室へ現れては、どこから入手したのか、ギルベルトお手製の「花柄クマちゃん」や「おめかしウサちゃん」を持ち込んだり、詩を朗読したり、その詩の解説を求めてきたりしてギルベルトを苦しめた。
悪魔の所業である。
(あの悪魔…っ! 学園に入学してついに本格的に動き出しおったな! 頼む、テオジェンナ! あの悪魔に捕まらずに逃げ切るのだ!)
ギルベルトには祈ることしか出来ない。
だが、ギルベルトの祈りむなしく、テオジェンナはいまだにルクリュスの本性に気づかず、「可愛い小石ちゃん」だと信じている。
「はうあああ~……小石ちゃんの残り香に包まれて帰宅するなんて……ぜ、贅沢すぎて神罰が下ってしまう! 神よ! 罪深きジャイアントゴーリアンをお許しください!」
馬車に向かって跪いて神に懺悔する愛娘を見守って、ギルベルトは目尻を拭った。




