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 お人形もお花も欲しいと思ったことがない。

 テオジェンナは、自分は可愛いものに興味がないのだと思っていた。


 だが、違ったのだ。


 本物の可愛いものの圧倒的な可愛さを知ってしまった七歳のあの日から、テオジェンナの頭の中には愛らしいルクリュスしかいない。


 だが、テオジェンナは自分がルクリュスに愛されるだなどと、高望みをしたことはない。


 何故なら、齢七歳のテオジェンナは、あまりに小さく愛らしい小石ちゃんに胸を撃ち抜かれ放心して(脳内は富岳三十六景神奈川沖浪裏のごとく荒波に理性という名の旅人を乗せた小舟が揉まれて)いたが、その後、岩石侯爵家の面々に囲まれて溺愛されているルクリュスを見て悟ったのだ。


 武で身を立ててきた家。

 幼い頃より剣を持つことを定められた身。

 同年代の女の子よりも高い身長、幼いなりに身につき始めた筋肉、金色の髪を引っ詰めて男物の服を着ている自分。


 テオジェンナもまた、カテゴリーで分類するならば岩石の部類であったのだ。


「わしらが外でルクリュスを抱っこすると光の早さで憲兵が飛んでくるのだ」


 肩を落としてそうぼやくガンドルフの言葉を聞いて、テオジェンナは確信した。


 小石ちゃんの隣に、岩石は似合わない。


 小石ちゃんのような、この世の愛らしさをすべて集めて煮詰めたような存在の隣に立つのは、小石ちゃんほどではなくとも世界で二番目くらいには愛らしい女の子でなければならない。

 岩石な自分など、お呼びではないのだ。


 テオジェンナは決めた。

 この想いは胸の奥に封印し、自分は小石ちゃんにとってただの幼馴染、ただの岩石であろうと。


「だから、私は小石ちゃんの幸せを見守るだけでいいのですっ……」


 テオジェンナは心からそう思っている。


「……生徒会室の床でのたうちまわりながらそんなこと言われても……」


 王太子が困惑する。

 その小石ちゃんとやらがどれだけ可愛いのか知らないが、常に凛として勇ましい侯爵令嬢をこんな風にしてしまうほどなのかと、少し興味を抱いた。


「私もそのゴッドホーンの子息に会ってみたいな」


 何気なく口にしただけであった。

 が、次の瞬間、レイクリードの背後に殺気が膨れ上がった。

 一瞬で王太子の背後に移動したテオジェンナが、獲物を前にした狂戦士の形相で唸り声を漏らした。


「……小石ちゃんに何用です……?」


(この圧力……、答えを間違えれば殺られるっ……!)


 レイクリードの持つ王位を継ぐ者としての直観は正しく生命の危機を告げていた。


「落ち着きなさいな、テオジェンナ」


 ユージェニーがそっとテオジェンナを窘める。


「ルクリュス様は外見は可愛いらしく見えても、あの武勇の誉れ高きゴッドホーン侯爵家のご令息よ。貴女が必要以上に心配するのは失礼にあたってよ?」

「う……わ、わかっている。学園で小石ちゃ……ルクリュスに必要以上に構うつもりはない」


 テオジェンナは胸を張って言った。


「私はただの幼馴染だ。自分の立場はわきまえている」





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