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 武勇を誇る名門スフィノーラ家の嫡男として生まれ、自らもまた武人となるべく生きてきたギルベルトが裁縫に興味を持ったのは、祖母の手から生み出される美しい作品の数々を目にした故だった。


 手芸好きの祖母はいつ見ても常に手を動かして何かしらを作っていて、幼少のギルベルトはそれを眺めて不思議な気持ちになった。糸と布が見る間に形を変えていく。

 祖母の隣に座った他愛ない話をしながら、じっと手元を眺めていた。


 それから何年も経ち、軍人となったギルベルトは、ある日亡くなった祖母の手芸道具と作りかけのぬいぐるみをみつけた。


 その時、ギルベルトは何となく針を持って、作りかけのぬいぐるみに刺してみた。

 ちくちく、ちくちく、と、無心に針を動かすだけで、形が作られていく。


 その単純作業に、いつしか熱中していた。


 祖母の手芸好きがギルベルトの魂にも受け継がれていたのか、作る喜びにすっかり取り憑かれてしまった。


 しかし、手芸など男のするものではない。


 まして、武人として勇名を馳せるギルベルト・スフィノーラが針を手にしている姿など、誰にも見られるわけにはいかなかった。


 何度もやめようと思ったが、一度知った作る楽しさを忘れることができず、家人の目を盗んでちくちく針を動かした。


 しかし、家の中ではいつ誰に見つかるかわからない。

 そこで、月に二、三度、仕事帰りに町の宿に部屋を借り、思う存分手芸を楽しむようになった。


 作るのは可愛いぬいぐるみや刺繍入りのハンカチ、綺麗なレース編みなどだ。

 作ったものはある程度溜まったら匿名で孤児院に寄付していた。


 そうして、長年にわたって誰にもバレることなく趣味を楽しんでいたのだが、ここにきて予想外の難敵が現れた。

 隣家の息子――ルクリュス・ゴッドホーン。


(何故だ!? 何故、奴が私の秘密を知っている!?)


 ギルベルトの内心は大混乱だった。冷静な態度をとることが難しくなる程に。


(落ち着け! 何も証拠はない! こんな子供が何を言ったところで、認めなければいいだけだ!)


「ふっ……何の話だかわからないな。君の勘違いだろう」

「勘違い……?え~、じゃあ、学生時代に詩作にハマってノートに書いたというこの詩集も僕の見間違いなのかな? 『おお! 太陽の欠片、光の子ら! 雨の檻に囚われながらも輝きを失わぬ気高き天空の戦士よ! 今は厚い黒雲に支配された空だとしても、いつの日かお前達の清らかな魂が天に届き、愛を歌う小鳥達が祝福の歌を……』」

「ぐあああっ! やめろぉぉっ!!」


 自作の詩を目の前で朗読されるというこの上ない苦痛と恥辱を味わわされ、ギルベルトは頭を抱えて絶叫した。




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