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「お願い? 私にか」
ギルベルトは不思議に思いながら話を促した。
ルクリュスはくりっと小首を傾げ、頰を赤く染めて言った。
「テオのことなんですけど」
少し困ったように眉を下げるルクリュスを見て、ギルベルトは「ついに来たか」と息を飲んだ。
ギルベルトの娘テオジェンナは、勇敢で凛々しくて、どこに出しても恥ずかしくない真っ直ぐな少女に育った。
だがしかし、どういうわけかテオジェンナはこの少年、ルクリュスを前にすると恥も外聞も礼節もかなぐり捨てて「今日も小石ちゃんが可愛いぃぃぃぃっ!! 昨日も可愛かったけどぉぉぉっ!! 昨日の可愛さに今日の可愛さが足されて、明日になればさらに明日の可愛さも加わってしまう! どうしたらいい!? 私は生きて明日を迎えられるのか!? 試される私!!」などと喚いてのたうち回るのだ。
ルクリュスの兄達は「お。今日の発作か!」「昨日釣ったサバより活きがいいな!」と好意的に見てくれているが、顔を合わせるたびに奇声をあげられるルクリュスからすればいい加減にうんざりしていることだろう。
とうとう耐えかねて直談判しにきたのかもしれない。
ギルベルトは眉間にしわを刻んで嘆息した。
「すまない。テオジェンナが迷惑をかけて。しかし、あの子はもう十四だ。あと一年と少しで学園に入学だし、そろそろ婚約のことも考え始める年頃だ。今までのように頻繁に遊びに行くことはできなくなるから――」
「は?」
不意に、ルクリュスの声音が剣呑な調子を帯びた。
部屋の空気が突如冷たくなった。
「スフィノーラ侯爵。あなたは何もわかってない」
ルクリュスは「やれやれ」とでも言いたげに肩をすくめて首を横に振った。
「なんだと。どういうことだ?」
「テオジェンナのことですよ。「婚約を考え始める」? 馬鹿も休み休み言ってください」
泣く子も黙る軍人スフィノーラ侯爵を前にして、ルクリュスはあからさまに嘲笑を浮かべる。ギルベルトはさっと顔を怒りに染めた。
「我が娘の婚約について、なぜ貴様に口を挟まれなければならん?」
普通の男なら腰を抜かすであろうギルベルトの威圧に、しかしルクリュスはなんら怯むことなく言い放った。
「決まっているでしょう? 隣家の男の子を見ただけで興奮して頭を抱えてのたうち回る令嬢に、まともな男がついていけると思いますか!?」
「むうっ!」
痛恨の一撃に、ギルベルトは歯を食い縛って顔を歪めた。




