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兄達が剣の稽古をしていても、幼いルクリュスは「危ないから」と言って近寄らせてもらえない。
早く大きく強くなりたいルクリュスは、こっそり自分を鍛えることにした。
「ふぐっ……うぬぬっ」
館の地下から無断で持ち出してきた古い剣を引きずって、ルクリュスは裏庭の大木の根元までやってきた。
引きずってきた剣を地面に横たえ、だるくなった腕で滝のような汗を拭う。
「ふぅ、ふぅ……よぅし。今日から毎日素振りをするぞ!」
兄達が指導役に何百回も素振りさせられているのを、ルクリュスは遠くから眺めていた。
最近では、時々遊びにきたテオジェンナが兄達に混じって稽古をしている。
(なんで、あいつは兄さんと一緒に稽古させてもらえるんだ)
ルクリュスは頬を膨らませた。
テオジェンナはルクリュスと顔を合わせると毎回飽きずに「今日も可愛いぃぃぃいついかなる時も可愛いなんてどういう奇跡!?」などと叫んでのたうち回る。
最初は驚いたが最近は見慣れてきた。兄達もはじめのうちは「大丈夫かこいつ」という表情で見ていたが、今では「お、今日も活きがいいな!」と釣り上げられたマグロを見るような目でテオジェンナの暴走を見守っている。
一つ年上の女の子が稽古に参加させてもらっているのが気に食わない。自分だって剣を握って強くなりたいのに。
「百回ぐらい振れるようになれば、僕も稽古に混ぜてもらえるはず」
ルクリュスは息が整わないまま、剣を持ち上げようと身を屈めた。
その瞬間、突然に視界が狭くなった。
(——あれ?)
見慣れた庭が急速に遠ざかり、ルクリュスの意識は闇に沈んだ。
目を覚ますと、自室の寝台に寝かされていた。
「ルー! 大丈夫か?」
「ろみお、に……さ……」
枕元についてくれていたすぐ上の兄が、心配そうに顔を覗き込んでくる。
「庭で倒れたんだぞ。テオジェンナがみつけたんだ。すげぇ取り乱して、真っ先にお前を抱き上げて運んでくれたのはいいんだけど、寝台に寝かせた後も「夏の暑さが小石ちゃんを! おのれ太陽め!」とか騒いでるから腹に一発入れて気絶させて家に送り届けておいた」
ご近所さんとはいえ、侯爵令嬢に対して随分な扱いだ。
「気をつけろよ。今日みたいな暑い日は外に出ない方がいいってよ」
「でも……」
兄達とテオジェンナは外に出ているじゃないか、とルクリュスは不満に思った。
その日は、職場や学園から帰ってきた父と他の兄達からも心配されめいっぱい甘やかされた。
その後も、何度も同じようなことがあった。
ルクリュスは兄達について行ったり真似をしようとしては力尽きて倒れた。
幼いルクリュスは漠然と、大きくなれば兄達のようにたくましくなれるのだと思っていた。
だけど、兄弟の中で自分だけがいつまでも小さなまま——「小石ちゃん」のままだと思い知ったのは、十歳の時だった。