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「でも、それなら今後もずっと可愛いふりを続けるのか?」
「僕の計画では、可愛さで惹きつけて心を捕らえて逃げられないようにしてから、可愛さ以外の部分も徐々に見せつけて慣らしていこうと思ってたんだけどね」
ルクリュスはふっと短い溜め息を吐いた。
「僕が話しかけただけで暴走しちゃうから、距離を縮めるのも難しいし、何よりも自分は僕にふさわしくないって思い込んでるのをなんとかしないとどうにもならないんだよ」
「はあ。なるほどね」
テオジェンナがのたうちまわる姿を何度も見ているため、レイクリード達にもルクリュスの抱える事情が理解できた。
自分を好きだということははっきりしているのに、相手には自分と結ばれる気がなく、かつ冷静に会話をすることが難しい。
確かに、それは難題だ。
「とにかく、今はテオが僕の可愛さに慣れるのを待つしか……」
ルクリュスの言葉の途中で、生徒会室の扉がノックされた。
「殿下。ただいま戻りました」
扉を開けて、ユージェニーとテオジェンナが入ってきた。
「テオ、おかえり!」
素早く机から飛び降りたルクリュスが、ぱあっと輝く笑顔を向ける。
「ぐああ! 可愛さを浴びて肋骨が砕け散るぅぅっ!!」
「どういう状況よ?」
早速ダメージを受けるテオジェンナに、ユージェニーが呆れた顔をした。
無理じゃないのか。慣れるなんて。
レイクリード達はそう思った。
その後、生徒会室を辞したルクリュスは、テオジェンナの家の馬車に乗せてもらい帰宅した。
馬車の中で二人きりになっても、テオジェンナは「馬車の中のいつもより小石ちゃんの匂いが濃い空気を吸うだなんてそんな罪深いことが岩石の私に許されるわけが」などと言って酸欠になりかけるので、ろくに会話もできやしない。
愛されすぎて、話が通じないのだ。
自室で一人きりになるとルクリュスは疲れたように溜め息を吐いた。
自分の一挙手一投足でいちいち死にかける相手と婚約までこぎつけるのがこんなに難しいだなんて、あの頃の自分は想像もしていなかった。
寝台に身を投げ出して、はあーっと脱力したルクリュスの脳裏に、幼い日の思い出が蘇ってきた。




