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小石ちゃんが尊い。
テオジェンナは目元を押さえて天を仰いだ。
テオジェンナと近しい生徒会の面々と仲良くなりたいから会わせてほしい、だなんて。
「健気で可愛いぃぃぃぃぃっ!! わざわざそんなお願いしてくるところが尊い! 小石ちゃんのお願いならどんなことでも聞きますけど!?」
自室の寝台の上で、テオジェンナはごろごろと転げ回って喚いた。
ちなみに、スフィノーラ侯爵家の使用人達はお嬢様の発作には慣れているので、多少暴れたところで誰も様子を見にこない。
ルクリュスが生徒会室を訪ねたいと思っていることを伝えた時、レイクリードは興味深そうにしてあっさり頷いていた。
「小石ちゃんと会えるのか。それは楽しみだな」
レイクリードがそう言っていたのを思い返し、テオジェンナはふむっと口を引き結んだ。
許可を得られたので、明日の放課後、ルクリュスを生徒会室へ連れて行く。
小石ちゃんはどこにいても可愛いので、もちろん生徒会室でも可愛いに決まっている。
(小石ちゃんの前では、あまり取り乱さないようにしないと)
誰かに聞かれたら「何を今さら」と驚かれるであろうが、テオジェンナはルクリュスの前ではかろうじて自分を抑えているつもりなのである。人は自分のことほど案外よくわかっていないものだ。
「しかし、小石ちゃんが生徒会に入りたいと言い出したらどうしよう」
テオジェンナはその可能性に眉を曇らせる。
小石ちゃんと毎日生徒会室で会うことになったら、自分は耐えられるだろうか。
挨拶するだけでも息も絶え絶えになっているというのに、生徒会室で一緒に学園の問題を話し合ったり、二人で一緒に見回りに行ったりなんかしたら。
「確実に死ぬ! 錯乱して自分で心臓を貫くか鼻血が止まらず出血多量か叫びすぎて窒息か興奮しすぎて脳の血管が切れるかする!」
テオジェンナは寝台の上で天井に向かって叫んだ。死因がどれになるかわからないが、避けられない死である。
「それに、レイクリード殿下が小石ちゃんを気に入って、奇声をあげたり地面にめり込んだりする私のような危険人物は小石ちゃんに接近禁止と命令してきたらどうすれば……」
不安になったテオジェンナは、頭を抱えて寝台に突っ伏した。
学園に入ればルクリュスの世界が広がるのは当然のことだ。
テオジェンナよりももっと気の合う相手と出会って親しくなって、信頼と親愛の笑顔を別の誰かに向けるようになる。
「……それは当然のことだ。ルクリュスにとっては、その方がいいんだ」
テオジェンナは力なく呟いた。