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ケルツェント王国王太子レイクリード。
フォックセル公爵家嫡男ジュリアン。
ルードリーフ侯爵家嫡男ケイン。
ヴェントーネ侯爵家嫡男ニコラス。
いずれ劣らぬ家柄と容姿と才覚を兼ね備えた男子達である。
「王太子には婚約者がいるからいいとして……残りの三人にはきっちり釘を刺しておかないと……」
テオジェンナに向かってさんざん愛想を振りまいてきたルクリュスは、自分の教室に戻るとすっと表情を消して席に着いた。
「あら? 何か悪巧みをなさっているご様子」
おもしろそうな気配を嗅ぎつけたのか、セシリアがクスクス笑いながらからかってくる。
「相変わらず回りくどいやり方をなさるのね。男らしくないわ」
「どこぞの蜘蛛女と違って、薬を盛ったりする卑怯なやり方は好きじゃないものでね」
腹黒同士がにっこりと微笑み合う。
教室の温度が下がった。寒い。
入学してひと月ほど経つが、この教室だけ他のクラスより明らかに平均気温が低いとクラスメイト達は確信していた。
「まあ! 正攻法で行かず外堀を埋めるような真似をなさる方に卑怯だなんて言われたくないわ」
セシリアは頰に指を当てて小首を傾げる。テオジェンナがこの場にいたら鼻血を流しそうな愛らしさだ。
「既成事実さえ作りゃあいいと思っている節足動物は、卑怯よりも俗物と呼んだ方がいいかな?」
ルクリュスは思案するように口を尖らせた。テオジェンナがこの場にいたら奇声をあげて窓ガラスを突き破って飛び降りそうな可愛さだ。
「うふふふ。ルクリュス様ったら。その外面ひっぺがしてテオジェンナ様に見せてさしあげたいわ」
「あははは。こっちこそ、セシリア嬢のお腹をかっさばいて真っ黒な中身を兄さんに見せてあげたいよ」
気温がまた下がった。
この教室、腹黒どもが会話すると温度が下がるようになっている。
何故、このクラスに腹黒を二人も入れたんだ。一クラスに一腹黒までにしてくれ。
クラスメイト達は切実にそう思った。
セシリアを適当にあしらい、ルクリュスはふん、と鼻を鳴らした。
回りくどいと言われようが知ったことか。目的のためには手段は選んでいられないのだ。
テオジェンナはルクリュスを好いている。それはわかりきったことだ。
だけど、本人にはルクリュスと結ばれる気がまったくない。
「一筋縄ではいかない相手なんだよ……」
誰にも聞こえないように、ルクリュスは小さくぼやいた。