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(また殿下に叱られてしまった……)
王太子の不興を買うのは臣下としてあってはならないことだ。
レイクリードが改めろと言うのであれば、テオジェンナは自らの行いを見直さなければならない。
(小石ちゃんを目の前にしても倒れないようにするためには……足腰を鍛えるべきか。今まで以上に下半身の鍛錬に重きを置いて……)
「あ、テオ! ちょっといいかな?」
強い足腰を手に入れるべく鍛錬メニューを考え始めたテオジェンナの元へ、件の小石ちゃんが訪ねてきた。
「小石ちゃっ……ルクリュス! 何故、二年の教室に!?」
教室の戸口から顔を覗かせる小石ちゃんの姿に、テオジェンナは椅子から転げ落ちた。そのまま、床にへたり込んで顔を赤くしてわたわた焦る。足腰が弱い。
「えへへ。ちょっとお願いがあって」
遠慮がちに教室に入って、照れくさそうに肩をすくめて笑う。頰をほんのり染めて大きな瞳をちょっと落ち着きがないようにきょろきょろさせて、テオジェンナの庇護欲を的確に撃ち抜く。実にあざとい。
「ぐあああっ! 可愛さに搦め捕られるぅぅっ!! 足が動かない! 私はもう駄目だぁぁぁっ!!」
「あのねー、テオっていつも生徒会の活動で忙しそうにしてるでしょ?」
頭を掻きむしって悶えるテオジェンナのそばにしゃがみ込んで、ルクリュスはくりっと首を傾げた。
「立ち上がることすらできない……私はここまでのようだ……くっ、殺せ!」
「それでね、テオが普段一緒にいるのってどんな人達かなぁって気になっちゃって……やだなぁ。ヤキモチ焼いてるみたいで恥ずかしいや。えへへ」
赤く染めた頬を両手で押さえて照れ笑いを浮かべるルクリュス。
「何故まだ生きているんだ私は!? もういい! 十分よくやった! もう可愛さに耐えなくていい! 楽になっていいんだ!」
「だからね。生徒会の皆さんに会ってみたいんだ」
死を覚悟したテオジェンナに、ルクリュスは「お願い」を口にする。
「神よ! 今貴方の御許に参ります! ……生徒会に?」
自主的に天に召されようとしていたテオジェンナはようやく我に返った。
この学園の生徒会は、もっとも身分の高い者が会長となり、残りの役員は会長の指名によって選ばれる。本来はロミオも指名されていたのだが、彼は「頭を使うのは苦手だから」と辞退してしまった。
なので、ルクリュスが生徒会に入りたいのであれば、テオジェンナがレイクリードに推薦することは可能だ。
しかし、ルクリュスは生徒会に入りたいわけではないと言う。
「僕はただ、テオのお友達と仲良くなりたいだけなんだ……」
「ふぎゅぅんぬっ!!」
まあるい瞳をぱちぱちさせて見上げてくるルクリュスに、可愛さの過剰摂取による発作を起こしたテオジェンナは再び奇声をあげて床に倒れこんだ。