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 愛らしい笑顔の下で壮絶な駆け引きを繰り広げるルクリュスとセシリア。

 そんな二人を見て心を痛めるテオジェンナ。たぶん、世界で一番無駄な痛みである。

 だが、テオジェンナは真剣だった。

 微笑みあう二人の姿はまるでおとぎの国の妖精の恋人達のようだ。

 ルクリュスのために祝福しなければと思うのに、見ていると辛くなってしまう。


 これ以上見ていられなくて、テオジェンナは目を伏せて二人を視界から追い出した。


(こんなんじゃ駄目だ。落ち着かなくては……)


 テオジェンナは目を伏せたまま手を伸ばし、お茶のカップを持ち上げた。


「あ。テオジェンナ、それ……」


 ロミオが何か言い掛けたが、テオジェンナはカップの中のお茶をぐいっと飲み干した。

 一口では飲みきれなかったお茶の量に、一瞬、「あれ? こんなに残っていたっけ」と不思議に思った。

 次の瞬間、テオジェンナの頭の中で何かが弾けた。


「ふへぇ?」


 急に体が熱くなって、ふわふわとした心地になった。目がチカチカする。


「あっ、テオジェンナ様?」


 テオジェンナの様子に気づいたセシリアが焦った声をあげた。


「カップを間違えておりますわ!」


 テオジェンナは自分のカップと隣のセシリアのカップを間違えていた。セシリアのカップに残っていたお茶を一気に飲んでしまったのだ。


 なんか入ってるお茶を。


「ふは……あう、ごめん。うへへ、でもなんか楽しい気分~」


 テオジェンナはご機嫌になってへらへら笑った。


「テオ? おい、テオに何を飲ませた?」

「大したことありませんわ。ちょっと気分が昂揚して周りにいる異性が魅力的に見えるようになるくらいで……」


 ルクリュスとセシリアがこそこそと囁き合う。

 テオジェンナはぽやんとする頭で二人を見た。


 可愛い二人が、ひそひそ内緒話をしている。

 なんの話をしているのだろう。

 きっと、可愛い話題に違いない。

 そう、たとえば。


『ねえ、知ってる? ウサギさんとネコさんはとっても仲良しなんだよ』

『ウサギさんはクマさんともお友達で、いつもお茶会をしているんだって』

『小鳥さんがお手紙を運んできたのに、ヤギさんが食べちゃったんだよ』

『森の仲間はみんな仲良しなんだ』


「か」

「テオ?」


「か、か、可愛いぃぃぃぃ~っ!!」


 感極まったテオジェンナは、ルクリュスとセシリアに飛びかかると二人をぎゅうっと抱きしめた。


「テ、テオ……っ?」

「可愛い~かわかわかわいい~んうへへへへ~っ。可愛い小石ちゃ~んっ。小石ちゃんと妖精がいるお茶会~っかわいい~この世で一番かわいいお茶会ら~!」


 テオジェンナは武勇を誇るスフィノーラ家の生まれである。

 力一杯抱きしめられては、小石と妖精の力では腕の中から抜け出すことは不可能だった。


『おいこら、異性が魅力的に見えるんじゃなかったのかよ? なんでお前まで』

『知りませんわ、そんなこと。あら、テオジェンナ様って着やせするタイプ……意外とふかふか』

『どこに顔埋めてんだコラ!』

『身長的に顔がちょうどこの位置なんですわー。不可抗力ですわー』


「かわ~かわいい~小石ちゃあ~ん」

「ちょっと、兄さん! テオを止めてよ!」


 ルクリュス的にはテオジェンナに抱きしめられるのは役得なのだが、肩に押しつけられている自分とは違い、腹黒な蜘蛛女がテオジェンナの胸に顔を埋めていることが気に入らない。


「んあ? テオジェンナはいつもこんな感じだろ?」


 ロミオはのんきに種がなくなったクッキーをぼりぼりかじっていた。

 彼はテオジェンナの暴走など見慣れているので、今さら多少奇矯な行動を取ったところで何とも思わない。

 むしろ、お茶会前に弓兵だのゴブリンだのと妙な妄想に囚われていたことを思うと、今日のテオジェンナは随分普通だな、と思っていた。


「んはあ~っかわいい~っ」

「ちょっ……テオ、少し力をゆるめて……っ」


 結局、薬が抜けるまでの三十分の間、テオジェンナはルクリュスとセシリアを抱きしめ続けたのだった。





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