プレゼント
「プレゼント」
1、
カチ、カチ、カチリ。
時計の秒針が私の誕生日を告げた瞬間、「それ」は突如私の目の前に現れた。
いや、「それ」という言い方は失礼かもしれない。
目の前に現れたものは確かに私と同じように手を、脚を、そして首を持っていた。
それら全てが折れ、ひしゃげ、潰れ、その体を支える支柱を顕にしているという点以外において、目の前に現れたのは私と同じ生き物である。
「それ」なんて言ったらバチが当たる。
今現在、目の前には普通の人が見たら悲鳴をあげるか、泡を吹いて気絶しそうな光景が繰り広げられている。
しかしながら私はいたく冷静だった。
何を考えたかはよく分からないが、ゆっくりとまだピクピク動く体に近づく。
足がぺちゃぺちゃと血溜まりを踏みしめて音を立てた。不思議と靴下が濡れている感覚はない。
所謂パーソナルスペースと呼ばれる範囲まで近寄って、私はしゃがむ。
もう顔で誰かを判別するのは不可能な程、相手の顔は潰れていた。
無い以上は仕方が無いので、本来目があったであろう所を覗き込んで目を合わせる。
「私だ。」
無い瞳孔と私の瞳が交わった瞬間、私は理解した。
今目の前にいる人は、私そのものだ。
顔は下唇を残して消失し、折れ曲がった手足は到底今この惨状を見ている私のものとはかけ離れてやせ細っている。
そっと失礼して、私が着ていた服を捲って腹を見てみると、これまた自分のものとは思えないほど薄くなった腹には無数の傷跡ができていた。
全くもって今の自分の面影を見いだせることは無いのだが、目の前にいるのは間違いなく私自身なのだ。
始め彼女が現れた時には平気だったとしても、流石に目の前の惨死体が自分だと理解してしまったら大抵の人はそのまま気を失うだろう。
不思議なことに私は目の前に自分の死体がある状況を、平然と受け入れていた。
どうしようか、までは流石に考えられていない。思考にもやがかかっているようだ。
しばらく目の前の自分を眺めていると、手足が軋みながら動き出した。
あ、まだ生きていたのか。心の中とはいえ、まだ生きていた相手に対して死体などと言ってしまったことは申し訳なく思った。
目の前の私は、恐らく何も見えていないだろうが、そこに私がいる、と認識するとあ、あ、などと掠れた声を出し始めた。
言葉を紡ぐための機関は半分削り落ちているが、声帯がまだ無事なようだ。
きっと、これが彼女の今際の言葉なのだろう。
せっかくここに居るんだから聞いてあげよう。誰かへの伝言なら必ず伝えよう。
「き……こえ……るか」
酷くノイズのかかったような声で問いかけられる。
私はなるべく安心させられるよう、満面の笑みで「聞こえてるよ」と返答した。
再び、私は口を開く。
ノイズが酷くて、前半は何を言っているかは聞き取れなかったが、多分、私の最期の言葉はこうだ。
「お願い…か…には近づくな」