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背水の桜  作者: 青黒緑
8/8

変動の日


-----------------------あの日の事。


本当ならあの日の事は、あまり話したくはない。だがしかし、同じクラスであり、僕の秘密を知ってしまっている彼女こと、『里山紗耶香』。彼女が今、僕に対して質問をしている。その質問の内容がまさに『なぜタトゥーを入れているのか』。


この理由を言うためには、そう。あの日の事を話さなくてはならない。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。


---------------------------------------------------------------------


三月初旬。まあ、付け加えるとしたら僕の高校受験が終わって、数日が経った日である。真面目な人からすると呆れられるほどだが、僕なりにコツコツと勉強し、来年進学する高校の受験が終わったころ。毎日夜遅くまで勉強した反動により、少しぐうたら気味になっていたころである。


もう一度ではあるが、軽く当時の僕の家の事を話そうと思う。家族としては、僕と母親、そして僕が小さいころから一緒に過ごしている愛犬、まだ名前は言っていなかったっけ。名前は『タモ』。なぜそのような名前になったのかは知らない。


父親は僕がまだ、物心がつかない頃にもうすでに離婚してしまった。まあ、理由なんか聞いても仕方がないと、なぜ離婚をしてしまったのかは知らない。ここからは僕の考察だが、離婚してしまったがゆえに僕が寂しがらないようにと、タモを飼い始めたのかもしれない。


-------そしてあの日がやってくる。


朝、机で朝食を食べていた。しかも今とは違い一人ではない。母親と一緒にに母親が作った朝食を食べていた。今思うとほんとうに懐かしい。


そして母親は僕に対して言う。


「槻高駅前の桜が満開なんだって」


僕は興味なさそうに返事する。


「へえーーー」


今になって思うとこんな何気ない会話も、もうできないと考えると悲しいばかりだ。まだまだ会話は続く。


「翔太朗、今日なんか予定ある?」


「別にないけど」


「じゃあ今からタモも連れて、一緒に見に行こうよ」


今、もしこの瞬間にタイムスリップできるのなら、全力で止めるだろう。なぜ母親はあの日、あの時に桜を見に行こうと言ったのだろうか。別に次の日でもよかっただろうに。桜なんてきっとしばらくは散らないのだから。


そしてその時もう一つ、タイムスリップができるのならば、やりたいことがある。


「いや、めんどくさいからいいや」


当時の僕は、母親からの申し出を断った。

ただ、面倒くさいなんて言うくだらない理由で。今でも考える。あの時僕も一緒に行っていたら、もしかしたら未来が変わっていたのかもしれない。


もしかしたら、今よりも落ち込んでしまう結果になってしたかもしれない。

もしかしたら、僕が早々に気づき、事故を止められたかもしれない。

もしかしたら、僕もあの事故に巻き込まれ、もうこの世にいないかもしれない。


何てことを今でも考える。もうどうしようもないことなのに。


---------------------------------------------------------------------


その後は、言うまでもない。

母親はタモを連れて、散歩に行ってしまった。そしてもう二度と、戻ってくることは無かった。


………その数時間後、僕の家に警察から電話が掛かってくる。正直、電話の内容は全く頭の中に入ってこなかった。そして急いで事故現場へと向かう。


現場に付くと、その光景に僕は絶句した。前頭部がへこんでいるトラック。急ブレーキがかけられたであろうと分かるぐらい濃くつけられたタイヤ痕。そして何より、そんな非日常な光景を前にしても、悠然と立ち、咲き誇っている満開の桜に目が行った。


母親はきっとこの桜の木を眺めていたんだろう、と想像がついた。奇しくも、それほどまでに()()()()()()()


その後、『息子さんですか』と聞かれ、いろいろと今回の事故について語られた。どうやら相手は、居眠り運転だったらしい。当時の僕はそんなことよりも、僕は母とタモの様態について詳しく知りたかった。そして僕は食い気味に聞いた。


どうやらもう手遅れだったらしい。


それを聞いて僕は力が抜け崩れ落ちた。崩れ落ちた僕の頭に、桜の花びらが一枚。

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