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背水の桜  作者: 青黒緑
7/8

脱衣の後


「大津君、見せてよ」


里山さんは僕に言った。もう逃げられない。というか、先ほどの状況でよく『ばれていない』と思えたものだ。

()()()()()()()()()()()。僕の秘密に。


「…………………」


これ以上の抵抗は無駄だと思い、僕はブレザーに手をかけ、ゆっくりとボタンをはずしていく。そして見えやすいようにと、僕はボタンをはずしながら彼女に背を向けるように座り直す。


「…………………」


そんな姿を彼女はじっと見つめている。正直、そんなに見つめられたら脱ぎにくい。だが、今の僕の選択肢は、脱ぐしかない。

ブレザー、カッターシャツ、と徐々に脱いでいく。そして残り一枚、僕が今最も信頼している厚手のシャツに手をかけている。


…………まだ間に合う。今、『やっぱり、恥ずかしいや』と言い、秘密を守ることができる。だがなぜだろう、彼女にはもうばらしてもよい気がする。別に、彼女に心を開いたわけでもない。彼女はきっとこの背中を受け入れてこれるはずだ、と信頼しているわけでもない。ただなんだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


そんなことを思いながら、厚手のシャツを下から捲り上げていく。


「……………………ふう」


脱ぐときに、髪の毛がぼさぼさになってしまったため、頭を横に振って直す。僕ができることは終わった。あとは彼女の反応を待つだけだ。拒絶されようが、否定的な反応をされようが、僕はしっかりと彼女の意見を受け止めようと、心を構えていたところだった。


だがしかし、彼女は特に反応を示さない。ただじっと僕の背中を見つめてる。僕は彼女の反応を見るために、曲げた体を元に戻す。彼女が反応を示してから、もう一度振り返ろう。


----------------数分後。彼女はようやく反応を示した、と言いうか口を開いた。


「……大津君、触ってもいいですか」


なぜ敬語なんだ。と、疑問を持ったが無視して答える。


「いいですよ」


僕も何となく、敬語で答えた。


「ありがとう」


そういうと、彼女は僕の背中に手を伸ばす。彼女の小さい掌の体温が僕に伝わる。やけに冷たく感じるのは、なぜだろうか。いや、冷たすぎる。低体温症か?なんて考えていると、彼女は僕の背中を指でゴシゴシと擦り始めた。


「痛っ………」


唐突な痛みに驚いてしまった。その後も彼女は続けて、僕の背中を擦ったり、摘まんだりしてくる。


「あ、絵とかシールじゃないんだ」


……彼女はボソッと言った。もう少し優しくしてほしい…なんて願いも届かないまま、彼女は僕の背中を弄り続ける。おそらく僕の背中は、赤く炎症を起こしているだろう。まあ、タトゥーで赤くなっているがわかりずらいと思うが。


-----------------------もう彼女は疑問は無くなったのか、弄るのをやめた。そして言った。


「こ、これはいわゆる()()()というやつですか」


「………………………………」


少し考えた後、僕は答えた。別に特に、考えるようなことはないのだが、まあ何となく。


「まあ、入れ墨と言うか、()()()()と言ったほうが正しいかな」


※意味は同じある、日本語と英語の違いだけである。


「へ、へえー、そうなんだ。や、やっぱり、入れるとき痛くなっかった?」


「ま、まあ多少は」


※彼は痛すぎて気絶しています。


「あー、やっぱり痛いんだ…」


この会話を最後に、また二人とも黙ってしまう。


同級性の目立たない男子が()()()タトゥーを入れていることを知って、彼女はかなり困惑しているようだ。というか、超やべーやつを自分の家に招いてしまった、と後悔しているに違いない。

僕はここら辺で、失礼しよう。そう思い、彼女に問う。


「そろそろ、服着てもいい?」


すると、彼女は慌てた様子で答える。


「あ!ごめんね。も、もう大丈夫だから…その、ありがとう…」


彼女からの許可も得たため、僕は厚手のシャツに手を伸ばす。今日初めて話したが、きっと彼女はこういった秘密を守ってくれるはずの人だ。そう信じ、特に何も伝えずに出ていこう。僕はそそくさと服を着て、里山さんの家を後にしようと、立ち上がろうとした時だった。


「あ、あの」


彼女は僕を呼び止めた。今日一日彼女と行動して、なんとなくこのタイミングに呼び止められそうとは感じたが。まあ、おそらく今後、彼女とはこんなに親密に話すことはないと思うので、最後に話しておこう。


「なに?」


彼女は答える。


「さ、最後に質問したいんだけど。ど、どうしてタトゥーを入れているんですか…?」


話し言葉と敬語がごちゃ混ぜになっている……なんて指摘するはずもない。そうだ、確かにそうだ。この背中を見せたからには、語らなくてはならないことがある。


「…………………………」


僕が考えていると、彼女は続けて問い続ける。


「ど、どうしても知りたいです……」


「………………………」


「ど、どうしても大津君がそんなに大きなタトゥーを入れている理由が知りたいです」


「-----------------------はあ」


ため息をついて落ち着く。分かったよ。話そうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。少し長くなるけど、彼女には覚悟してもらおう。


そう決め切った時の顔はなぜだろう、鏡を見たわけではないが。なんか…こう、今までの人生の中で一番、何か大きな決断をしたかのような決め切った顔をしていたと思う。そして、その顔を見た彼女は、笑顔で僕に言った。


「言ってくれなかったら、あの会開くよ」


まだその会の事引っ張るのか………でもこれは彼女なりのジョークだろう。しっかりと受け止めよう。


さあ、話そうかあの日の事を。

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