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背水の桜  作者: 青黒緑
6/8

沈黙の後


「………………………」


静けさと沈黙が鳴り響く。そう、ここは僕の家ではない、里山紗耶香さんの家だ。しかもお風呂場、いや脱衣所。いったん今の状況整理といこう。


僕は里山さんの家で雨宿りをさせてもらってる。そして、やや強引にお風呂場に連れていかれ、()()()()()()()()()()()()()。これを背負ってまだ二週間ほどしかたっていないのにも関わらず、ばれてしまうとは僕の今後の人生が心配である。……()()()()()()()()()()()()()()()!!!


「すぅーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


深い深呼吸と共に思考を巡らせる。

さすがにやばくないか……。彼女からしたら、同級生の目立たない男子が背中にタトゥーを入れている、そんなことを知ったら驚かずにはいられないだろう。そしてもしかしたら彼女は誰かに話すかもしれない。そうなってもし、先生の耳にでも入ったら……高校退学も考えられる。


「いやまて」


僕は考える。『もしかしたら、ばれていないかもしれない』そう、都合のいいように。とにかく服を着よう、そう考えるしかなかった。


ガチャ


扉を開ける。彼女の父親のトレーナーを着させていただいて、僕の制服が乾くのを待たせていただこう。そう思い僕は、彼女の家のリビングらしきところに行かせていただく。

そしてそこには、当たり前のように彼女がいた。


「…………………………」


ダイニングテーブルの椅子に座らせていただく。正直、沈黙が続くと思っていた。しかし、彼女はすぐに口を開いた。まるで僕が部屋に入ってきたら必ず言うように、決めていたかのように。


「あ、上がったの…服大きくなかった?」


「あ、うん…」


「そっか……」


会話はこれだけだった。もっとこう…問い詰められると思っていた。しかし、それだけではなかった。


「さっきはごめんね……」


「あ、うん……別に気にしてないよ……」


僕の裸何かどうでもいい。僕は彼女の言葉に耳を傾ける。しかし、聞こえてきた言葉は意外だった。


「あ、じゃあ次、私入るね」


「え?」


「あ…いや、私も雨で濡れて入りたいだけど……駄目?」


「いや、駄目とかじゃないけど…」


「なに?覗いたりしないでよね」


「し、しないよ…」


まあ、確かに彼女も雨で濡れているわけなので、僕に言える口はない。ただ、何というか。ああ、やっぱり、きっと彼女は僕の全裸に見とれていただけだろう?!ああ。良かった、良かった。



ザア-----------------------


これは雨の音ではなく彼女がシャワーを浴びている音だ。なぜなら、もう雨は上がっている。そしてもう一つ鳴り響いているのは、僕が掛けているドライヤーの音だ。といううのも、彼女は僕がシャワーを浴びている間にずっと掛けていてくれたのだ。(だが、僕が部屋に入ったのと同時にスイッチを切ってくれた)


彼女がお風呂を上がったのと同時に、僕はお礼を言って帰らせていただこう。そうだそれでいい。何もなかった。また明日から、僕は普通の高校生だ、()()()()()()()()()()()()()



-----------------------数十分後。彼女が脱衣所から出てきた。

僕はと言うと、彼女が出てくる前に少し濡れてはいるが制服を一通り着ておいた。僕は人前では、着替えられないのだ。


「ごめんねー大津君。今、上がったよー」


「あーうん。あ、そうだ制服もう乾いたよ、ドライヤーありがとう……」


今着ている制服を彼女に見せる。そして僕は続けて言う。


「あ、じゃあ僕はこれで……………」


すると彼女は言った-------まただ、これで何回目だ。


「あ、じゃあドライヤー貸してもらえる?まだ髪乾かせてないんだ」


……彼女はよく僕の会話を遮断する。しかも、大体僕が一番言いたいことを遮断されている気がする。

だがしかし、彼女は現に濡れた髪をタオルで巻いている。ドライヤーを貸してから伝えよう。


「あ、うん。--------それじゃあ僕はこれで………」


「ねえ、大津君」


彼女はドライヤーを受け取った。しかしコンセントは挿さない。


「え、何……」


嫌な予感がする。だがしかし、僕は彼女に聞き返す。ここで無言で出ていくほど、僕は人間の心を失ってはいない。さあ、かかってこい。


「コンセント挿してくれる?」


「……………………」


無言で挿す。


「ありがとう大津君」


「ど…どうも」


彼女は髪を乾かし始める。どうしたらいいんだ、僕は。


-----------------------ドライヤーの音が鳴り響く。そうして彼女は口を開く。


「ねえ、大津君」


「なに?」


「…制服脱いでくれない?」


「……どうして」


「大津君の裸が見たいなーって思って」


「ついさっき、十分見てたじゃんか…」


「いいから」


「今更脱ぐにめんどくさいよ。それに、もういい時間だし、そろそろかえ……」


「大津君。見せてよ」


彼女はドライヤーのスイッチを切り、食い気味に言った。そう、僕が話をそらしたことを彼女は見逃さなかった。

彼女と今日初めて話をした。今日彼女のいろんな表情を見た。…しかし今の彼女の表情は一度も見たことのない、真剣な眼差しだった。


そしてもう一度彼女は僕に向けて言う。


「大津君、背中見せてくれる?」


……どうやらチェックメイトのようだ。

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