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背水の桜  作者: 青黒緑
5/8

背中の事


ザア---------------------------------------------


強烈な雨音があたりで鳴り響いている。このコンクリートが焼かれたようなにおいは、あまり好きではない。このような雨が降る姿はもう、僕の眼には真っ白な線にしか見えない。


風景描写は一度置いておいて、今はどちらかというと緊急事態だ。状況をまとめると、今僕は里山さんと二人で公園の屋根付きベンチで、雨宿りをしている。


「--------------------------」


なぜか気まずい雰囲気が流れる。それもそのはず、僕も彼女もびしょ濡れであるからだ。僕はというと、自分の背中の事で頭がいっぱいだ。実はというか、今日の体育の授業以降、どうもブレザーを暑苦しく感じ、危険も承知で脱ぎ、鞄の中にしまってしまったのだ。


「------濡れちゃったね……」


里山さんはというと、彼女もまたブレザーを着ておらず、びしょ濡れである。彼女が気まずそうにしている理由としては、カッターシャツが濡れ、下着が透けてしまっているからだろう。一応彼女も女の子なわけであるので、僕も少し気を使い、彼女と距離を空け座っている。


「この後どうする?この様子だと雨も止みそうにないけど…」


傘も持っていないので、もうブレザーを頭からかぶり、走って家に帰りたいところではあるが、彼女はどうするつもりなのだろう。まあいい。僕はもうそろそろ帰らせてもらおう。


『僕はこのまま走って帰る』と伝えようと、口を開こうとした時だった。


「私の家来ない?」


………ん?なんて言った。雨でよく聞こえなかったな。


「私の家近くにあるから、そこで雨宿りしない?」


「-----------------------はあ…………?」


今更ではあるが、見事な間抜け顔だったと思う。しっかりと『私の家に来ない?』と言われた。


「私の家だったらタオルとかあるし、どう?大津君の家ここから少し距離あるし、このままここに雨宿りしているわけにもいかないし、来る?」


「いや…い、いいよ。僕は走って帰るよ」


少してんぱり、さっき言おうとしたことを急いで伝える。さすがにこれ以上彼女とかかわるのは危険だ、と感じ僕はこの場を去ろう足を踏みだそうとした。


「じゃ、じゃあ僕はもう帰るね」


僕は鞄からブレザーを出し、頭から被った時だった。


「まって!!」


と、言い手をつかまれた。


「さすがにこの雨の中で帰るのはまずいって。大津君、たまには()()()()()()()


…………まったく、彼女は痛いところを突いてくる。ああ確かに、僕は今まで友達を頼ったことなんてないよ。だけど、今は状況が違う。背中の秘密を守らないといけない。すると彼女は、続けていった。


「来なかったら例の会開くよ」


「……行かせていただきます」


背に腹は代えられぬ。背中の桜にかけて。


---------------------------------------------


「じゃあ行くよ」


と、威勢の良い声で言った彼女は、僕と同じようにブレザーを頭から被っている。彼女もこれ以上濡れたくないらしい。当たり前だ。


「せーの」


掛け声と同時に僕と彼女は雨の中へ駆け出した。前を見ても何も見えない。ただひたすらに彼女の背中を追いかける。



「ハアハアハア……」


二人とも息切れをしている。雨の中全力疾走で走ったためかなり疲れた。どうやらあの公園から彼女の家までは確かに近くにあるらしい。


「じゃあ大津君、ちょっと待ってて」


そういうと彼女は家の中へと入っていった。どうやら家に入るときに何も言わないあたり、彼女の家には家族は居ないらしい。その間に僕は背中を確認する。雨で濡れているのにもかかわらず透けていないあたり、僕の今着ている圧手のシャツは優秀らしい。


……数十分後。彼女がタオルを持って家を出てきた。


「大津君、はいタオル」


「あ、ありがとう」


そう言い彼女のタオルを受け取ろうと彼女に一瞥を与えた時、彼女が着替えていることに気が付いた。

なんかこう、地味なスポーツジャージを着ていた。


「あ、ごめんね。さすがにあんなに濡れちゃったから着替えてきちゃったよ」


彼女の話を聞きながら僕はタオルで顔を拭いていた。すると彼女は『こんな所で待つのもなんだし』と、僕を家の中へと押し込んだ。一応抵抗はしたが、背中が透けていない安堵から気を許してしまった。


「じゃあ僕はここで待たせてもらうよ」


と言い、玄関に腰を下ろさせてもらった。(もちろんタオルを下に敷き、彼女の家の玄関が濡れないように気を使っている)だがしかし、彼女は言った。


「え?お風呂入っていかないの?もう沸かしてあるけど」


……どうりでなかなか戻ってこなかったわけだ。今日初めて話した男子を自分の家の風呂に招くか?普通。いや、案外僕が知らないだけで普通なのかもしれないが。


「いや、いいよ。そこまでしてもらわなくても」


「えー、駄目だよ大津君。そんなに濡れてるのに。風邪ひくよ?」


「いや、タオルまで貸してもらってるのに……さすがにお風呂まで貸してもらうことなんてできないよ……」


「いや大丈夫だよ。ほらこっち」


と言い、またも僕の腕を引っ張る。強引な子だな。今更だけど。


お風呂場は生活感がとても感じられる。ともあってかさすがにお風呂に入るのは少し抵抗がある。シャワーだけでも借りそう。強がったが、正直僕も寒い。


---------------------------------------------


雨というものは大気中の埃などを吸収しているので、とても汚いという情報を見たことがある。なので雨に濡れた後は風呂に入るべきだ、という情報をどこかで聞いた。などと考えながらシャワーを浴び、濡れた体をふく。すると洗面台の鏡に目が行った。


「-----------------------ああ………」


タトゥーを入れた翌日の事を思い出した。その時も確か同じような声を出した気がする。

忘れていたわけではないが、改めて自分の家以外で僕は自分の背中を見たことがなかった。思わず、数秒ではあるが見とれてしまった。やはりいいデザインだ。


今となればわかる。この時の僕は緩んでいた。里山さんの家だというのに。

『ガチャ』と風呂場の扉の開く音。それと同時に里山さんの声が聞こえる。


『大津君、お父さんのジャージで悪いけど、制服が乾くまでにこれ着てて………』


里山さん目が合う。そして徐々に視線が変わっていく。クラスメイトの男子の全裸を見て彼女はどういう反応をするのか、などと変態のような思考はしない。というか、緊急事態だ。


()()()()()()()()()()()()()()


-----------------慌てて僕は背中を隠す。だがしかし、この場合だと僕は自分の全裸を彼女に見せびらかす、露出狂のようになってしまった。


……そうすると彼女は我に返ったのか、顔を赤らめ、目を手で覆い、『ご、ごめーーーーーーん!!』と言って出て行ってしまった。



「-----------------------ああ………」


本日二度目の、声にならない声が出た。

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