第7話 無人島
こんにちはお久しぶりです。
そこはどこかわからない砂浜だった。眼を覚ましたウィルが見たのは人っ子一人いない美しい海岸である。周りを見回すともうひとつ打ち上げられたモノがあった。浜辺に打ち上げられたのは自分だけではなかったようだ。
★★★★★★★
「……ん……っ」
「あ!気がついた?」
王子が眼を冷ますと目の前にはウィリ。ではない、双子の弟、ウィルの顔があった。
「何故……ここは?」
「ここはどっかの島の洞窟だよ~。なんか流されて島に流れついたのをボクが見つけてこの洞窟まで運んであげたってわけ。」
「そうか、敵なのにすまんなぁ。」
「べつにぃ、無人島みたいだし、人でがないと生きていくの大変かなぁて、思っただけだよ。」
話し終わるとウィルはいきなり着ているカッターシャツを脱ぎ始めた。
「?」
それを王子が興味深そうにじっと見つめた。
「?何?」
「いや、ウィリとは全く違うなと、思っただけだ。」
「当たり前でしょ!兄さんと違ってボクさ鍛えてるし!」
そう言って自信満々にウィルは脱ぎかけのカッターシャツの隙間から自分の体を見せつけてくる。
「?あれ?君は脱がないの?風邪引くよ?」
「む?!い、いやぁ、俺はこのままで大丈夫だ!はっはっはっ!」
王子はおどおどとした態度で右手を軽く上げて断っていた。
「………何それ?」
ニタリとウィルの口元が歪んだ。
「怪しいなぁ、なんか隠してるんじゃない?なんだろ~?まさかガリガリとか?デブとか?」
「おっ、おいっ?!」
ウィルは楽しげに舌なめずりをし、レェーネを後ろから掴み無理に服を脱がしていく。王子は抵抗するが背後を取られ、うまく抵抗できない。
「……な、何これ…」
ウィルは王子の姿を見て愕然とした。そこにはさらしを巻いた少女の姿があったからだ。そして深いため息をついて、その場に四つん這いになり項垂れた。
「はぁーーーーー!」
「!?なっ、なんだ?」
「君、影武者なの?ニセモノかも…」
ガッ
「ふざけるなっ!!この俺が本物の王子でなくしてなんだと言う!!」
王子の怒りに触れたウィルは王子に胸ぐらを思いっきり捕まれ地面へと叩きつけられる。
「あー、はいはい、女の子しか生まれなかったから王子にしたってことねっ?げほっちょっ、苦しいから話してくれる?」
「なっ、貴様察しがいいな…。」
王子はウィルから手を離す。ウィルは、首元に苦しげに手を触れるが、次の瞬間王子へと飛びかかった。
「っ?!」
王子の首を軽く絞める。
「当たり前でしょ、あとこれはお返し!」
パッとウィルが手を離すとレェーネは咳き込んだ。
「ごほっごほっごほっ……。なるほど、ウィリとは大違いだ。」
「兄さんなんかとボクを比べないでくれる?はぁ~」
ウィルが深いため息を吐くと王子はなるほどなぁ、と言いながら服を脱ぎ始めた。
「え?!ちょっ?!き、君、何して……?!?!」
「何って、服を脱いでいるんだ?」
「は、はぁ?!?!ちょっ?!ボクいるのに……」
「もう女だとバレてるしいいだろ。」
と、ウィルがいることなどお構い無しに服を脱ぐのでウィルは慌てて壁の方を向いた。
「……はい、これ!」
「ん?なんだこれ?」
ウィルはレェーネに先に脱いで乾かして置いた上着を手渡した。
「それ、乾いてるから!」
「む、すまないな、敵なのに……。」
そう言って王子は上着を着た。強いて言うならばこの時上着を渡さなければ眼のやり場に困りまだ純粋なウィルの心が持たなかっただろう。
「はぁ……。」
改めてウィルは頭を抱える。無人島に敵と流れつき、その敵が問題児で女の子なのだ。問題は山積みである。
「最悪。」
「まあ、そう言うな、それより腹が減ったぞ!」
「は、ははっ……。とりあえず木の実取っといたのあるからどうぞ……。」
あまりにも身勝手かつ、自由奔放な王子にウィルは頭が痛くなった。
「おお、既に採集済みとは!やるではないか!ご苦労ご苦労!」
なんの木の実かはわからないがとにかく腹を満たすために王子はかぶりついた。
「むぐむぐ……ところでウィリは何故殺されたふりなどしたんだ?そして、もぐ、何故戻ってきた?ごくんっ」
「食べながら話さないでくれるぅ?」
ウィルは王子の有り様に呆れかえって頭が痛い。王子の前で服を脱ぐことあたわず、仕方なく絞って対処する。
「それはぁ、兄さんに帰還命令が出たからぁ、君の方では死んだ事にしとこぉて、なってぇ。」
「ふむふむ、もぐもぐ。」
「で、帰還したけど、兄さんがどうしてもボクの君を殺す任務ついて来たいって聞かないから連れていったんだけど、なんか勝手に君の方に戻っちゃったわけ。本当に勝手な事されて困ってるんだよねぇ。」
「なるほど、ごくんっ。ところで、そんなこと俺に話していいのか?」
「話せって、言ったの君だけど……まあ、いいんじゃない?大した情報じゃないし。」
ウィルは改めて取ってきた木の実を手に取る。
「そうか、わかった。では、寝る。」
「うん、そ……て、えええ?なっ?お、おやすみ?」
戸惑いながらもすてんと地べたへと寝転び寝る王子をウィルは確認した。キラリとカッターシャツに隠した刃が光る。
ガッ
「ほう、寝込みを襲うとは、なかなかに卑怯ではないか?」
「何言ってるのさ、ボク達敵どぉしぃ~。それに君に一つ聞きたい事があったからさっ!」
「聞きたい事?」
ウィルはさっと刃物をしまう。
「そっ!“君”って、兄さんとどういう関係なの?ほら、もう王子とは呼ばないってどういうことかなぁて?」
「それは…、ウィリと俺は臣下と王子だが、この間から恋人同士となったのだ。」
「は?兄さんに恋人?」
「ああ、まあ、この戦争の間のみの仮初めのもので、あくまで、恋人候補だが。まぁ、つまり恋人(仮)だな。」
「ぷっ、何それ?兄さん弄ばれてるのぉ?」
はははっとウィルは口元を押さえながら笑いだす。
「まあ、そうだよね?兄さんなんかに恋人なんて出きるわけないしwww」
「おい!俺の幼馴染みをバカにするな!」
レェーネはウィルを睨みつけた。
「ごめん、ごめん。でも、ボク兄さんをいじめるのが趣味だから仕方ないんだよねぇ。」
「ほぅ」
二人の視線がバチバチと威嚇しあう。が、王子はまた突然地面へと寝転んだ。
「言いたい事は多々あるが、今日はもう遅い、疲れたので寝る。」
「え?寝?ええ??」
そして言葉の通り寝息を立てて寝め始めてしまった王子をウィルは呆れながらも自分も座ったまま壁にもたれかかり寝る事にした。月は満ち星は巡り、そして、朝が訪れる。
★★★★★
「ん、んん……て、あれ?」
目覚めたウィルは眼を疑った。洞窟の壁に立て掛けていた主武器の大鎌がなくなっており、王子の姿が見当たらかったからだ。慌てて洞窟を出る。
★★★★★
洞窟の外では王子がウィルの大鎌を掲げて木を伐採していた。
「よっと…」
「ああーーーー!!??」
「む?」
「む?じゃない!ボクの鎌!何に使ってるんだよ!!?」
「何って、見ればわかるだろ?木を切っている!」
「ボクのかぁまぁああっ!!??」
「よしっ!できた!」
「出来たって…なに…」
王子の指差すほうにはボロボロの今にも崩れ落ちてバラバラになりそうな木の束があった。
「船!完成だ!!これで脱出するぞ!」
「え?死ぬの?死ぬ気なの??逝ってらっしゃい。」
「??」
王子はウィルが言わんとしている事がわからないようである。ウィル曰く、言いたい事はそれで沖にでたら死ぬよ♡ である。
王子は船を沖に出そうとするが、船は沖に出そうと引っ張った途端にバラバラになった。
「何?!何が悪かったんだ?!」
「何もかもだよ。」
ウィルは呆れてただ笑うしかできなかった。
その船らしき木の束を悪戦苦闘しながらこうでもないあーでもないと組み立てようとする王子を見ながらウィルはため息をついた。
「はぁ、見てられない。貸して。」
鎌を持つ王子を後ろから支える。
「な?!」
「こうやって切るんだよ。(まあ、木を切るものじゃないんだけどぉねぇええ(怒))」
ウィルに支えられながら新しく木を切った。背中からウィルの息遣いと熱が感じられ、王子は戸惑った。
「もう一回行くよぉ。」
「こうか?」
王子はウィルに支えられながらうまく木を切る事が出来た。
「そうそう、うまい。うまい。」
「お前のおかげだ。ありがとう。」
「っ!」
殺そうとしている敵に笑顔でありがとうと言われると思っていなかったウィルは戸惑った。
「べつにぃ……見てられなかっただけだし……」
「優しいんだな」
「なっ?優しい?べつに……ほっとけなかっただけで……」
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二人が悪戦苦闘した結果船は完成した。結局大きな木を斬り倒しそれをくり貫く事で船を作った。
「よしっ!完成だ!では行くぞ!!」
「わぁ、いってらっしゃあい!」
ウィルは王子に手を振り送り出そうとした。
「何を言う!貴様も行くのだ!!」
「は?ええ!?」
王子はウィルを掴むと無理やり船に乗せる。
「よし、漕げーー!!」
「はいはい……」
渋々王子と共にオールを漕ぎ、ウィルは航海に出る事となってしまった。船は順調に進む。そして、……奇跡的に元の港へとたどり着いたのだ。
「「つ、ついたぁーー!!」」
おまけ
しばらくこの小説はおやすみします。よろしくおねがいします。評価、感想お待ちしております。