第6話 遭難
第6話 遭難
「さて、では、…」
宿の部屋はいつになくぴりぴりとした空気に満ちていた。
「話して貰おうか?ウィリ。」
王子がウィリに剣を向ける。
そう、戻ってきたのだ。ウィリは王子とフィルシュに囲まれている。
「何故王子を“裏切った”!?ウィリ!」
「いや、“裏切った”のではないこいつは始めから“向こう側の人間”だ。」
「れ、レェーネちゃんは全部知ってるの?」
震えながら青ざめるウィリ。対して王子は
「わからぬから聞いておるのだろうっ!!」
「わぁああーっ?!」
ウィリの胸ぐらを掴みぶんぶんと振り回す王子、フィルシュはあわあわとそんな王子を宥める。
「ご、ごめんなさぁい(泣)」
「うむ、説明しろっ!」
「う、うん、……僕と弟のウィルは…」
僕と弟のウィルは幼い頃に捨て子として孤児院に預けられていたんだ。そんな僕達を引き取ってくれたのがテェル大臣だった。
「ほう、テェルか…」
「うん、大臣の元へ僕達は引き取られたんだけど…」
僕はいっつもどじばっかりでなにやっても上手くいかなくて、弟はその何でもこなせて、剣術も上手かったから暗殺者として大臣に育てられたんだ。何も出来ない僕は王子の世話係として情報収集だけでもしてこいって言われて……
「確か、世話係などいらぬという俺に、世話係を進めてきたのも選んで来たのもテェルだったか…」
王子は腕を組ながら何かを考えているようだった。
「どこまで向こうは知っているんだ!」
「だ、大丈夫だよ!れ、レェーネちゃん達の居場所を少しずらして報告してるから……」
「……何故戻ってきた?」
王子は剣の切っ先をウィリへと向けた。王子の鋭い眼が光る。
「レ、レェーネちゃん…ぼ、僕…」
「む?」
「僕はっ!」
ウィリは顔を赤く染めて王子へと抱き付いてきた。
「僕の気持ちは本物だからっ!」
そう言って王子の頬に口づけをする。
「そんな事はどうでもいいっ!!」
「ええええっ?!」
王子の言葉にショックを受けるウィリ。ウィリなりに勇気を振り絞って伝えた気持ちだったのだ。
「そんな事は知っている。俺の性格を知っているお前なら、戻って来れば殺されるやも知れぬと思わなかったのか?」
「それでも、君が、好きだから、君の側にいたかったんだ!!」
「……そうか、」
王子はそのまま剣を納めた。
「王子、この者をいかがいたしましょう?」
フィルシュはその様子を見てウィリへの処罰を行うべきなのか戸惑った。王子にとってウィリは唯一の友なのだ。それを奪うべきなのだろかと思ったからだ。しかし、裏切り者を見過ごすわけにもいかない。王子の指示を待つのみである。
「……」
無言、王子は何も答えない。長い沈黙の後、王子はウィリが戻ってきた事を考慮する事にした。
「此度は大目に見てやる。次はないぞ。」
「うん…」
「王子……」
フィルシュは複雑な心境だった。裏切り者を野放しにしてよいものか、だが、王子の唯一の友と言うのも事実なのだ。それを奪うべきではないのだろう。フィルシュはウィリには注意して置こうと心に誓うのだった。
「今日はもう遅い。休むぞ。」
その日はフィルシュとウィリは部屋の中で見張りをする事になった。そして、事件が起きたのは翌朝の事である。
(しまった、眠って……)
フィルシュが眼を冷ますとそこには……
「お、王子?!」
王子の姿はなかったのだった。
「た、大佐?どうかし……あれ?!」
寝てしまっていた二人は大いに焦った。
★★★★★★★★★★
「うむ!これを見たかったのだ!!」
海には朝陽が登り、茜色に染まり、キラキラと輝く波は、さざめいている。王子はボラードに足を載せてポーズをとっている。
「朝陽、まさしく美しい俺の背景にぴったりだな!ふんっ!」
「おーい、聞いてる?そんなことしてる場合なの?」
「うむ!案内ご苦労!」
ビシッと、片手をウィルの方に向けて礼を示した。
「ご苦労って、君、もし僕が別の場所に連れて行って罠にはめるとか考えない訳?」
「そんな事、俺との決着をつけたがっている貴様はしないだろ?」
「ふふっ、なるほど、そうだね。じゃっ、」
そう言って大鎌を構えるウィル。
「良かろう。」
剣の鞘に手をかける王子。
「相手になってやるっ!!」
そうして二人は海をバックに戦闘を始めた。ぽたぽたと、雨が降り始める。雨の中、王子はウィルの大鎌を避けては受け流し、ウィルは大鎌で受けきれない王子の剣をナイフで止め、クナイで反撃する。雨が降りしきる。ウィルが大鎌を振るって王子がそれを受け止めた時だった。
ズルッ
「?!」
王子が足を滑らせ海へと落ちて行く。王子は咄嗟にウィルの服を掴んだ。
「ちょっ、なにして…?!」
ウィルは王子がいきなり掴んで来たのでバランスを崩し王子と共に海へと落ちていく。海にまっ逆さまな現実にウィルは衝撃を受けそのまま落ちていく。
「…嘘……」
ザザァーンッ
二人は海へと消えていき、見えなくなる。二人が消えた港には、荒い波の音だけが響き渡っていた。
おまけ
こんにちは、いつもありがとうございます。久しぶりの更新です。よろしくお願いします。この小説につきましては更新をしばらくおやすみします。すみません。次回の更新を今しばらくお待ちください。