第5話 その死体の真実
「王子……」
「フィルシュ、二人っきりだな…」
窓辺に座る王子の蒼い髪が風にそよぐ。
「あの、…」
フィルシュはいい淀みながらなかなか本題を口にしない。
「なんだ?何か言いたい事があるなら言ってみろ。」
「はい、王子…」
一拍の間を空けてフィルシュはうつむきながら恐る恐る声をだした。
「服が乱れていますっ!」
赤面しながら王子の服装の乱れを注意し、ズボンと上着をぐいぐい渡してくる。
「よいではないかっ!寝る時ぐらい楽にさせてくれっ!」
怒鳴る王子に慌てながらも、フィルシュは赤面してあわあわとしている。
「まあ、仕方ないでは…」
そう言って王子はベッドの上のサラシを持つ。
「王子、それは?」
「む?これか?巻くのだ!」
説明しよう!王宮特製品サラシを巻くことによって王子はその大きな胸を隠す事に成功している!
「胸が苦しいのだかな…はぁ」
王子のため息は深いものだった。
「お、王子!苦しいなら別に…」
サラシを巻こうとする王子をフィルシュは引き止める。
「そうか?では、もっと楽にしようか?」
そう言って胸元のボタンを外そうとする王子を、フィルシュは慌てて止めた。
ドサッ
王子を止めようとしたフィルシュは、足を滑らせ、王子ごと床へダイブしてしまった。
「?!」
「!」
王子の上に馬乗りになるフィルシュ。
「お、王子!も、も、申し訳っ!」
慌てて退こうとするフィルシュに対して王子は
「はっはっはっ、いや、すまん、すまん、少しからかっただけだ!」
フィルシュの下で大笑いしている。
「王子…」
「む?」
ばたんっ
「?????!!」
フィルシュ大佐の視界は暗転し、暗闇に呑まれた。そう、つまりは王子を押し倒してしまったたけで赤面し、気絶してしまったのだ。
★★★★★★
「う、うぅん……」
「おはよう」
「お、王子?!」
フィルシュが眼を冷ますと、フィルシュの眼の前に王子がいる。ベッドの上に二人で添い寝していた。慌てたフィルシュは飛び起き、そのまま後ろに後退りし、ベッドから転げ落ちる。
「フィルシュ!」
ドサッ
「大丈夫か?」
「は、はい……」
フィルシュは転んで尻もちをついた所を痛そうにしていた。王子はさて、と言い、ベッドから立ち上がると服を着替えだした。
「お、王子?!」
フィルシュは慌てて後ろを向く。
「行くとするか!フィルシュ」
赤面したフィルシュはうつむきながら問う。
「何処にですか?」
王子は静かに顔を上げ答えた。
「ウィリに会いにだ!!」
★★★★★★★
相も変わらず、森は静まり返り木々は鬱蒼と繁っている。
「王子、ここは確か、昨日死体があった…」
「ああ、そうだ!」
王子はフィルシュと共に昨日ウィリの死体があった場所へと再び来た。死体は何故か片付けられており、そこには血液の痕しか残っていない。
「あの死体には顔部分に特に多くの杭が刺さっていた、つまり、」
「顔を見せたくなかったと?」
「そうだ!」
死体はウィリによく似ていたがウィリではない別人の者であったと言うのだ。
「さて、では…」
「?」
王子は一呼吸置き大声で叫んだ。
「出てくるがいいっ!無礼者!そこにいるのはわかっている!」
王子が叫ぶと叢の中から黒いフードをきた男が草を掻き分けて出てきた。そして、フードを取ると、そこにいたのは…
「ウィリ?!」
そう、ウィリに瓜二つの顔である。
「いやっ!違う!こいつはウィリではない!」
王子は驚くフィルシュを制す。
「何言ってるの?ウィリだよ?“王子”?」
少年はそう言いながら口元を緩める。
「残念だな、ウィリは俺をもう、“王子”とは呼ばない!」
「えー、何それ?よくわかんないんだけど?」
少年はヘラヘラとした態度で王子の方を見ている。
「ウィリ!いるんだろ!出てこいっ!!」
王子が叫ぶとそれを聞いていたウィリは茂みの中にいた。王子の声を聞いた瞬間、いることをわかってくれた事が嬉しくなる。そして、自分と“彼”を間違わかった事を嬉しく思った。
「そんなの出てくるわけ…」
少年が否定しようとすると茂みの奥からウィリが飛び出してきた。
「レェーネちゃん!!」
「?!」
「っ!?」
「ふっ」
ウィリが王子の元へと駆け寄るとフィルシュは驚き、少年は驚くと共に苛立ち、王子は口元に笑みを浮かべた。
「レェーネちゃん、ごめん、僕…」
王子の元に駆け寄ったウィリはばつが悪そうにもぞもぞとしている。そんなウィリ達を見ながら少年はため息を漏らした。
「全く、使えないなぁ、兄さん」
「「「?!」」」
そう、少年とウィリは双子の兄弟なのである。
「ウィリが兄?お前の方が兄っぽく見えるぞ?」
「君、見る眼あるね」
意外と話しが合うウィリの弟と王子。しかし、そんな軽口を叩き合う事は長くは続かなかった。
「じゃあ、死んでくれる?」
そういってウィリの弟は剣を取り出すと王子へと斬りかかった。
バキンッ
「ふんっ!この程度…なっ!」
王子が剣を受け流すと共に後ろからはクナイが飛んでくる。王子は何とかそれを紙一重でかわした。かと思えば今度は右側から短剣が飛んでくる。
「ふっ!なかなかやるなっ!仮面男!」
全てを叩き落とし、左側から斬りかかってきた弟の剣を受け止める。
「あれ?そっちもバレちゃってたんだ?」
「当然だ!」
両者一歩も引かずに剣を打ち合う。そして、一旦二人が後方へ下がった時、フィルシュが手助けをしようとしてきた。
「フィルシュ!手を出すな!」
「しかしっ!」
王子はそれに対して少し不機嫌になりながら笑みを浮かべている。
「久方ぶりに本気を出せる相手に出会えたのだ!下がっていろ!お前ごと斬るやもしれんっ!」
「……はっ!」
フィルシュは渋々引き下がりながら王子を見る。
「抜かせるか……」
その瞬間そこにいる三名はゾクリッと寒気を感じた。
「この俺に、二本目を!!」
王子が腰にさした二本目の剣を手に取った。
(王子の殺気が増した?!まさか王子は本来、)
フィルシュは王子から漂う殺気を敏感に感じとる。
そう、王子は“二刀流”使いなのである。
「行くぞっ!仮面男!」
「ふふっ、面白いね。君。」
そうして二人は再び剣を合わせる。クナイが右側から飛んできたと思うと正面からは弟が斬りかかってくる。弟の剣を避け、クナイを叩き落とすが、次に避けた右側からナイフが飛んでくる。ナイフを右で叩き落とし、そのまま弟の剣を受け止めた。かと思うと更に上から複数のナイフが飛んでくる。
王子は一歩下がってナイフを避ける。と、ここで急に弟も一歩下がり、そのまま剣を直し始めた。
「また逃げるつもりか!!不敬っ!!」
「ボクだって本当は続けたいけど、ここに長くいるとボクの仕事仲間に君の居場所がバレちゃうかもしれないでしょ?」
「?どういう事だ?」
「君とは二人だけで殺し合いたいからさっ、邪魔者が入ると困るんだよね。君の首はボクが貰いたいからさっ!」
「ほうっ、言うではないか、良かろう。では、決着は次に持ち越してやる!」
「オッケー!じゃあ、またね。」
そういって少年は叢へと消えていった。森に静けさが再び訪れる。
おまけ




