第3話 仮初めの恋人
こんにちは(。・ω・)ノ
今回もちょっと長くなっちゃいました。よろしくお願いします。
城を追われた王子は拠点となる宿を確保し、一時の安息を手に入れる。そんな王子達に影が迫る?!
では、本編へ
「レェーネちゃんが、好き!」
恥じらいながらそう言う少年に王子は少し驚きながらも落ち着いてこう言った。
「ああ、俺もお前が好きだ。」
「ええ?!」
突然の告白に胸が高鳴り、高揚するウィリだったがその感情は次の王子の言葉によって淡く消え去った。
「俺の唯一の“友”だからな。」
「とも、だち、……」
「ああ」
落胆したウィリは意を決してその意味を告げる。
「そうじゃ、なくて!ぼ、僕はっ!レェーネちゃんの事が、レェーネちゃんが、恋愛対象として好きなんだ!!」
「……」
「こんなこと、急に言われても驚くよね……」
「そんな事は知っている」
ケロッとした顔で何事もなかったかのような顔をしている王子に逆にウィリが驚いた。
「へ、へぇえええええ?!なっ、なっ、なんで?!?!」
「何故も何も、お前が俺の事を好きな事ぐらい、見ていてわかる。それよりも、」
「?!」
王子の手が頬に触れ、頬を撫でられる。ウィリは高揚のあまり、硬直した。
「あ、あの、…」
王子はウィリの顎に手を添え、くいっと自分の顔に引き寄せる。
「あ、わぁっわっ!?!?」
恋い焦がれている人の顔がより近づいたことで、ウィリは赤面し、心臓はドクドクと波打つ。
「それよりも、何故、今それを告げた?」
「へ?そ、それは……その…」
「お前以外の人間と俺が親しくするのがそんなに気に食わないか?」
「……」
沈黙、それは肯定を意味していた。ウィリはレェーネが自分以外の相手と親しくしているのが気に入らないのだ。
「それで、何を望む?」
「へ?えぇ??」
「今までその想いを告げずに来たお前が俺に愛の告白をしたのだ。何か、欲しいのだろ?良かろう、望みを言ってみろ。」
「の、望みって、ぼ、僕はただ、その…」
「ただ?何も望まずにただ告げただけだと?それで良いのか?俺の気分とお前の返答次第ではお前の望むモノが手に入るやも知れぬぞ?」
「…………君と、付き合いたい……」
赤面した少年はただ、ぽつりとそう言った。
王子はその答えに驚き、そして笑い出した。
「ははははははははっ!!」
「え?!はぇ?!な、なんで?!」
何故相手が笑いだしたのか検討も付かないウィリはただただあわあわと慌てている。お腹を抱えて笑い転げる王子はすまん、すまんと言いながら目頭の涙を抜ぐった。
「はは、一夜の夢よりもより深く、より強く、この俺を求めると言うのか!!つくづく欲深いやつだ!!」
「へぇええぇ!?いちよって、それで、ぼ、ぼくはそんなっ」
赤面しながら涙眼であわあわと慌てふためいているウィリ、そんなウィリに応えるかのように王子は決定を下した。
「良かろう!では、お前を今日から俺の恋人候補にしてやる!」
「こ、恋人候補!??!」
「この俺を本気にさせてみろっ!そうすれば……いや、言うまい、とにかく、仮初めの恋人となり、俺を本気にさせてみるがいいっ!!」
「う、うん!わかった!僕頑張るね!」
「では、こいっ!」
「ふへぇ?!」
いきなり腕を引っ張られたウィリはベッドに引き込まれてしまう。
「あ、あああ、あの?!レェーネちゃん?!」
「恋人になったんだ添い寝ぐらいなら良いだろ?」
「あ、う、うん、いいの?」
「うむ。」
王子の一挙一動にどきまぎさせられっぱなしのウィリ、その日は二人で添い寝したのだった。
★★★★★★
「おはよう、ウィリ。」
「お、おはよう、レェーネちゃん。あ、そう言えば」
「良い、許す。」
「え?!僕まだ何も…」
「名前で読んでいいかだろ?」
「そ、そうだよ。普段はもちろん王子って、呼ぶけど、その、」
「うむ、良い。気にするな、これからは仮初めとは言え恋人なのだからな。」
そう言いながらベッドから降り、ウィリの事など気にも止めずに着替え始める王子、
「あわあわわわわ?!?!」
慌てて後ろを向くウィリはそのまま勢いよくベッドからずり落ちた。
どっしぃーんっ。
「大丈夫か?」
「あ、あはは……」
ウィリの心レェーネ知らずである。着替え終わったレェーネはウィリに手を差しのべる。
「あ、ありがっ…うわっ」
王子は自分の方へウィリを抱き寄せる。突然の事にウィリは恥じらいながらも幸福を感じずにはいられない。
「レェーネちゃん、……」
そして、そのまま二人の顔が近づいていき………。
こんこんこん。
そんな二人を裂くようにノックが鳴った。
「失礼します。あの……」
フィルシュ大佐が部屋の中に入るとそこには赤面しながら離れようとするウィリと、そんなウィリを抱き寄せたまま離そうとしない王子の姿があった。
「あ、あの、お邪魔でしたか?」
「いや、良い、それより見回りご苦労。」
「はっ!」
「レ、レェーネちゃん、こ、これはちょっと恥ずかしい!」
「気にするな」
王子は全く動じることなく平気そうに振る舞っている。ウィリは赤面して、涙眼になり、羞恥心で心が押し潰されそうになっていた。
「気にするよぉおおおおっ!!」
「全く、お前と言うやつは……これぐらいで、」
しぶしぶ王子はウィリを離し、やっと解放されたウィリはおどおどとしながら慌てて卓袱台につく。
「もぉー!!王子!!」
こんこんこんと、ノックと共に昨日の女性が入って来た。
「あのー!朝食の準備が出来ました。皆さん下の食堂に降りてきていただけますか?」
「はい。レディー。ありがとうございます。」
ニコニコと何事もなかったかのように笑顔で応える王子と赤面しているウィリ、フィルシュが呆然と見ていた。
★★★★★★★
朝食はごく普通のパンに目玉焼き、ベーコン、サラダ、コーンスープと至って普通のものであるが王子にとっては城の外の珍しい食事である。食事を終えようと言う時に王子は動いた。
「さて、フィルシュ、これからの事だが…」
「はっ」
フィルシュが真剣そうに聞き入っていた刹那、
「よしっ!探検に行くぞ!!」
「「?!?!」」
耳を疑うばかりの言葉に驚く以外の事が出来ない。
「昨日言っただろ?昨日は拠点を探すので手一杯だったが、今日は街を散策するぞ!」
「う、ウィリ、」
「は、はい。」
二人は今同じ事を思っている。王子はそんな二人の事など露知らず。
「「王子」」
「?」
「「今はそんな場合じゃない」でしょ!」筈です!!」
二人息ぴったりで王子に抗議していた。
「何を言う!せっかく自由になれたんだ!城の外を探索せずにいられる訳などないだろう!!行くぞ!!」
と、無理にでも探索を決行しようと言う王子に呆れ返りながらも二人は王子に付いていく他になかったのだった。
★★★★★
「おおっ!あれはなんだ!」
「あ、これは…」
街に出ると王子の知らないモノで溢れており、興味深そうに王子は見つけると二人に質問ばかりしている。
「あっちはなんだ!」
「あれは出店だよ。」
「出店?バザールと言うやつなのか?」
「そうだよ。」
「おぉ!あれはなんだ!」
一人盛り上がる王子、どんどん一人で進んでいく王子に、二人は何とか王子に付いていく。
「王子は楽しそうにしておられるな。」
「そうですね。お城の外にお忍びで出られる事なんて滅多になかったですから……」
これはなんだと、出店の主人に聞く王子を二人は温かな目で微笑ましそうに見守る。
「そうか、楽しんでおられるなら、それが何よりだな。」
「王子が楽しそうならいいですよね。」
★★★★★★★★★
「ぜんっぜん良くなかったぁあ…………」
カァー、カァー、と、烏の鳴き声が響き渡る街外れの森に迷い込んだ三人は帰る道もわからぬまま迷っていた。
「よしっ!あっちだ!」
「もうっ!勝手に進んでいくのやめてぇええ!!(泣)」
「いや、こっちな気がするぞ!」
「……(汗)。」
ウィリは絶叫し、フィルシュは呆れていた。
「どうやって帰るのさっ!」
「そう、怒るな、ウィリ、それより……」
ウィリを宥める王子はそんなことなどお構い無しである。
そして、王子は声を張り上げ、大声で叫んだ。
「出てこいっ!不敬!いつまで隠れているつもりだ!!」
「「?!?!」」
ガサッ、と言う音と共に王子の方に向かって何かが飛んで来た。
王子は剣を取り、それを受け止める。
「追手?!」
見ると王子と黒いマントを羽織り、フードを被った男が剣を交えていた。鍔迫り合う両者は刹那、言の葉を交わす。
「よくわかりましたね。」
「当然だ!この俺にわからぬ事などない!!」
そう言って相手の剣を受け流した王子は余裕の笑みを浮かべる。
「こいっ!」
ぶつかる剣と剣、交わる剣筋が輝る。フィルシュは王子に加勢しようとしたその時、
「忠犬!手を出すな!」
王子の声が森中に響いた。
「し、しかし!」
「俺一人で問題ない!」
フィルシュはその答えに戸惑いながらも、己の主を信じ、一歩引いた。
「はっ!承知しました!」
再び両者の剣が重なり合う。両者一歩も譲らず……否。
「この程度か!」
王子は急に不機嫌そうになったかと思うと剣を思い切り振りかざした。
「?!」
その剣は重く、とても片手で握っているとは思えない程の威力を持っていた。そう、王子は今まで全く本気を出しておらず、ずっと片手で剣を軽く握り振るっていたのだ。
追手は焦燥した。
(なんて、威力だ!ここは距離を置いて……)
追手はその威力の強さに怖じ気づき、一度体勢を整えようと一歩下がろうとした。その瞬間、悪寒が走る。
「誰が」
ギロリと王子が睨むと共に入る剣撃に、追手は威力の強さで肩を痛めた。
(これは不味い!ここは一度引いて……)
「下がって良いと言った!!」
ガシャンッ。
一歩下がる前に王子の一撃を受けた追手はカルク右腕を負傷した。
刹那、ナニかが眼に入る。
“マップタツ”
(こ、殺される!!)
追手の眼に入ったのは自分が持っていた剣だった。剣は真っ二つに両断され、刃先は地面に落ちている。
(真っ二つに!!)
「この俺の命を狙っておきながら勝手に下がる事はこの俺が許さん!無礼者めがっ!!」
ズシャッ。
カチッ。
王子の剣が鞘に入ると共に後方で“ソレ”は崩れ落ちた。
「ひっ!!??」
「っ!!」
あまりの光景にウィリは吐き気を催し、フィルシュは冷や汗を掻いている。そしておぞましいのは、王子は片手のみで相手を圧倒し、両断してしまった事だった。
「つまらん。この程度とは……。」
「れ、レェーネちゃん!こ、こんなひどく殺す事…」
「王子、殺す必要は無かったのでは…」
青ざめるウィリ、恐る恐る王子の顔色を伺うフィルシュを王子は怒鳴りつけた。
「これは俺の決定だ!意見するなっ!」
「し、失礼いたしました!しかしながら、王子!この者を捕らえ、情報を聞き出す事も出来たのではないでしょうか!」
フィルシュは王子の気を悪くするやもしれないと怖じ気づきながらも、自らの意見を言わずにいられなかった。ただでさえ城を追われ、なんの情報もなく、いつ追手達に見つかり殺されるやもしれないのだ。少しでも情報を得る事が生き残る術であることは明白だった。
「………」
「っ!」
王子の沈黙がフィルシュに突き刺さる。フィルシュは、今この場で王子に意見した事で切り伏せられるのではないかと、張り詰めた空気の中覚悟した。
「フィルシュ、確かにお前の言う通りだ!だが、この追手が正しい情報を吐くと言う確証はない!更に取り逃がせば俺達の居場所を奴らに知られる事になる!故に俺の決定に間違いはないっ!」
「はっ!意見申し上げ、申し訳ございません!」
「だが、よく言った。誉めてやる。忠犬。」
「……はい?」
王子の機嫌を損ねたとばかり思っていたフィルシュは呆気に取られた。笑みを浮かべながらも、威厳に溢れる顔で王子は続けた。
「この俺が間違いを犯したと判断し、お前は俺に臆する事なく意見してきた。それは誰にでも出来る事ではない。故に、誉めている。」
「なっ、はっ!ありがたき幸せです!」
「これからも俺に意見する事を許す。」
「はっ!」
「なっ……」
ウィリは二人の距離が少しずつ縮まっている事に不満でしかなかった。
鳥が空を飛んでいる。
フィルシュにばかり構い、ウィリを蔑ろにする王子にウィリが不機嫌そうなのを見て王子はウィリを引きよせた。
「なっ?!」
「どうした?犬、そんなに構って欲しいのか?」
抱き寄せられて赤面するウィリはうつむきながら羞恥のあまり涙眼になっている。
「……か。」
「ん?」
「レェーネちゃんの、バカっ!」
そういって王子を振りほどき何処かに走って行くウィリ。
バカと言う言葉に王子は苛立ちながら拳を握り絞める。
「何故、こうなる……くっ。」
あっと言う間にウィリは何処かに走り去ってしまった。
「フィルシュ、ウィリを追うぞ!」
「はっ!」
★★★★★★★
鳥が降りたち、ウィリは森の中で一人でいた。
鳥が飛んでいく。
「ウィリ!!」
「レェーネちゃん!」
ウィリを見つけたフィルシュ、王子は、ウィリの両肩を乱暴に掴んだ。
「ふざけるなっ!!」
「え!?」
その剣幕にウィリはぶるぶると震え怯える。
「ご、ごめん、ぼ、僕……」
「一人で行動するなっ!!」
そう言いながら王子はウィリを優しく抱き寄せる。
「え?」
「追手がいるかもしれないんだぞ!お前に何かあったらどうする!」
「レェーネちゃん……」
自分を心配する王子の優しさにウィリは涙眼になりながらその腕に顔を埋めた。
「うん。ごめんなさい。」
「わかればいい。」
涙を流すウィリの頬を王子は指で優しく拭う。ウィリはどきまぎしながらもその優しさに胸がいっぱいだった。王子はウィリが泣き止むとそっと離れる。
「帰るぞ!犬共っ!」
「はい!」「うん!」
バサッ
(鳥……?)
王子達の頭上を一話の鳥が飛んでいる。鳥は不穏な影を森に落としているのだった。
おまけイラスト
評価、感想お待ちしてます。




