第89話 魔法は使えない
この2人、そろそろ活躍するはず。たぶん。ていうかしろ。
※2021/10/28より改行修正入れております。内容には変更ございません。
その頃、シアンとソーヤは泉に映る巨大蜘蛛に釘付けになっていた。
「おーい。もうすぐ時間だぞ、水の精霊」
シアンがテーブルから乗り出し、もどかしそうに映像の中のコーデリアへ声を掛ける。それを見てソーヤが紅茶を啜りながら笑う。
「ギリギリだな。アリオたち、国家魔導士と戦う羽目になるんじゃないか?」
彼がそう言うと水の網が霧のように蒸発し、コーデリアは大蜘蛛へ微笑んで姿を消す。映像に映る巨大な蜘蛛の背中には大きく『この子を殺すなんて三流のやることですよ。大賢者』と書かれていた。
シアンはそれを嬉々として笑う。
「本当に書いてある! あいつ自分で自分のこと『大賢者』って言ってたのか。意外とナルシストだな〜」
「そういう奴だっただろ。いつも自分の立てた作戦にカケラも疑問持たないからな、あいつ……お前もお前で大抵異論を持たないし」
苦々しい思い出を振り返りながら、ソーヤはそう言い返した。
「そうだっけ?」
「そうだった」
シアンが悪気なさそうに「よく覚えてないな〜」と呟くと、泉の映像は選定の間に切り替わった。
『選定の間』は中央に大きな金属製の水盆のような物があり、そこからとんでもない量の水が湧き出ている。映像を見ると、ちょうどアリオの聖剣にコーデリアが戻って来たところだった。
シアンはコーデリアを眺めながら呟いた。
「聖剣は手を離れたけど、精霊が見えるままで良かった」
「お前、まるで魔法の才能ないもんな」
ソーヤがからかうように笑った。ムッとした表情で、シアンは彼を睨み付ける。
「才能がないんじゃない。聖剣の後継者は、聖剣を取った後に才能が開花するようになってるって、叔父上が仰っていた」
しかめっ面の彼女を見ても、ソーヤは顔色を変えることはなかった。
「でも別に魔法が使えるわけじゃないだろ」
「うるさいな〜。多少魔術が使えるからって…ん?」
シアンは選定の間の映像に複数人の人影を見つけた。何やら立ち往生している様子だ。2人は顔を見合わせると映像の細部を覗き込んだ。




