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誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第3章 地下神殿と砂の海獣
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第82話 決行前


 助っ人さんたちが続々と集まって来ました。


※2021/10/28より改行修正入れております。内容には変更ございません。



 同日。夕刻。


 アリオが『科学屋』に入ると、1週間前のメンバーが全員揃っており、まだ来ていないのはエリアーデだけだった。朝方、捕えた水魔を『癒しの泉』へ連れて行くと言われたきり、彼女とは会っていない。


 いつもならしきりに無駄口を叩くコーデリアも、今日は一度泉へ戻ったのか、朝話したきり声を聞いていなかった。


「おや。お姫様とはまだ口を聞いて貰えないのかい?」


 店に入るなり、奥に腰掛けるシャーロットにそう尋ねられた。1人で入って来たのが面白かったようだ。


 1週間も会っていない人間に突然そんなことを言われ、アリオは(しか)めっ面で「お姫様って柄じゃないだろ」と言い返した。


 彼女は今日も変わらず上品なシャツにロングスカートを身に付け、足元に黒革のブーツを履いていた。茶色い癖毛を片側にまとめ、青い蝶をあしらった髪飾りで留めている。


 一方のアリオは、この国に来た時と同じような旅装備に足元は茶色い革ブーツを履いていた。さすがに身長が伸びてしまったので、サラマーラの知り合いの店でエリアーデと一緒に新調したものだった。


 シャーロットの横に座るナズナは、頬を右手で覆うと憐れむような目でため息をつく。


「この国は噂が早いですからね。『勇者と賢者、痴話喧嘩』というのも、1週間もすればみんな飽きて来ちゃうようで」


 彼女の後ろからマックスが顔を出し、不思議そうにアリオへ尋ねた。彼は旅装備を持っていないので、訓練用の防具を着てきたようだ。


「そもそもなんで急に喧嘩なんかしたんだ? 最終打ち合わせの後からだろ? うちの中で無視し合うのは、面倒くさいからやめてくれよ」


 アリオは困り顔のマックスへ、気まずそうに「ごめん」と謝った。


「聖剣の3つ目の試練の件でちょっと納得行かなくて」


 そう言うとアリオは口を結んで俯いた。その様子を見て、それ以上は誰も何も聞かなかった。アリオは空気を重くしてしまったことが申し訳なくなり、ナズナへ声を掛けた。


「ところでナズナ、その服いつもと違くない?」


 ナズナはいつも『浴衣』という彼女の生まれ故郷の伝統衣装を着ていたが、今日は上が浴衣のような衣装で、下は裾が広がった紺色の変わったパンツを履いていた。


 さらに上に着た服の袖を肩までたくし上げ、布紐で縛り上げている。足元は茶色い革のブーツだ。彼女は「ああ」と呟く。


「私こう見えても合気道の有段者なんです。いくら戦力外とはいえ、護身程度は自分ですべきかと思いまして」


「つまり、彼女はその気になればマックスでも押さえられるってことだよ」


「あら、手合わせしない?」


 オムが後ろから面白そうにそう補足し、サラマーロがそれをからかった。


 オムはいつも通り濃い青色の厚手のパンツに、シンプルな柄の長袖シャツを着ていた。彼も中々体格が良く、大きな銀色の宝飾類もいつも通りだ。


 サラマーロもいつもの女性用の民族衣装を着ている。


 1人だけ真っ白な羽織り、『白衣』を着たクリストファーが、照れるナズナへさらなる追い討ちをかけた。


「ていうか邪魔だから持って行かないって言ってたけど、君って薙刀も使えるじゃないか」


 アリオとマックスが知らない言葉について行けず、顔を合わせてきょとんとすると、「言い過ぎです!」とナズナが頬を赤らめて抗議する。


「せいぜい1人で逃げられる、くらいのものですよ!」


 彼女はそう言ったが、『科学屋』のメンバーが苦笑いしただけで誰も何も答えなかった。またしばらく沈黙が流れる。


 最初に挨拶したきり黙ったままのベルガー医師は、オムと似たような格好に革ジャケットを羽織っていたが、背丈のせいなのか存在感がひと味違った。


 やがてクリストファーが我慢出来なくなったように口を開いた。


「そろそろ7時じゃないかい?」


 シャーロットが壁に掛けられた文字盤に目をやった。彼らの世界の『時計』という道具で、1日の正確な時間を刻む物らしい。


 500年前までは外の世界にも普及しており、アインでも珍しいものではなかったが、アリオはここへ来て初めて見た。


 『科学屋』のメンバーは、この『時計』の小さいものを腕輪にして使っており、待ち合わせなどに便利そうだとアリオは思っていた。


「ああ。助っ人もそろそろ来るだろう。さすがにエリーを探して来てくれないか? シャーリーンなら居場所が分かるだろう」


 シャーロットがアリオへそう言うと、彼は微妙な面持ちで腰を上げた。奇妙な道具が陳列された店内を抜け、戸を開けると目の前にエリアーデが立っていた。


 彼女は今日は新調したばかりの修道服を着ている。動きやすいよう腰から下は、真ん中を開けられるワンピースに変更し、短パンに茶色い革ブーツを着用していた。


 そしてそんな彼女の後ろには、見覚えのある人物が立っている。


「あ…こんばんは。ルカさん」


「こんばんは、アリオ。ルカで良いよ。そこの角でエリーとばったり会ってね」


 背の高い人の良さそうな青年は、短い茶髪に布を巻き、この国に多い濃い褐色の肌に民族衣装を(まと)っている。


 彼はこの国の魔導士で、たまに行商人をしているとエリアーデから聞いていた。日頃の戦闘訓練のお陰で、彼は体格もそこそこ良かった。


「エリーにも呼び捨てで良いって言ってるんだけど、なかなか敬語が抜けないよね」


 彼はそう言うと爽やかにアリオへ笑い掛けた。アリオが半笑いで「ロティ、気付いてたな…」と小さく呟くと、ルカは不思議そうに首を傾げた。


 相変わらずアリオと目を合わせないエリアーデは、そのまま店の中へすたすたと入り込んだ。アリオが面白くなさそうな顔でルカに入るよう促すと、ルカの背後からさらに声がした。


「我々も入って良いか?」


 闇の中からぬっと姿を現した2人に、アリオは思わず息を呑んだ。先日、エリアーデの腕を掴んだ4本腕の緑肌の女性と、その脇には黒いローブで全身を隠した背の高い金髪の男が立っていた。


 アリオはその女を連れて来た男を再び警戒し、敵意剥き出しの表情で話し掛けた。


「何しに来た?」


 男は弱ったという顔で小さくため息をつくと、傍の女に悪態をついた。


「タトラマージ。お前のせいで警戒されたじゃないか」


 彼女は薄気味悪い笑みを浮かべ、まるで悪びれているようには見えなかった。


「え〜。こないだは悪かったよ。別に私は吸血種ってわけじゃないから、安心して貰えない? 今日は魔導士として来たわけだし。血を吸うのはこっちの爺さまの方だからさ」


 タトラマージに年齢を(あげつら)われ、男は少し気を悪くしたようだった。


「…誰が爺さまだ。それを言うならお前も長命種だろう」


 長命種と言われた彼女は、4本の腕を腰に当てて舌を出す。


「この世界の物差しで測らないでくれない? こう見えても人間なんだから、私」


 2人がそんなやり取りをしていると、今度はアリオよりも低い位置から声が聞こえた。


「遅れてごめんよ。ちょっと通してくれ」


 彼が目線を下げると、やたら背の低い成人女性が目の前の2人を押し退けて店へ入って来た。なんとアリオの腹ぐらいまでしか身長がない。タトラマージは自分を押し退ける彼女へ抗議した。


「ちょっと、押さなくても良いじゃない」


「時は金なりだ。さっさと行こうじゃないか」


 店に入るとその女性は彼女へ振り返ってそう言った。


 茶色いドレッドヘアに暗い赫色(かくいろ)のつり目が鋭く突き刺さる。少しだけ日焼けした腕っ節の良いその女性は、厚手のパンツに皮のジャケットを羽織り、外の世界のゴロツキのような格好をしていた。


 女性にしてはかなり鍛え上げているようで、身長と体格のギャップにアリオはたじろぎ道を譲った。


「全員揃ったな。早く中に入ってくれ」


 シャーロットが奥から入り口へ呼び掛けた。ルカとタトラマージが中に入ると、金髪の男はアリオの聖剣を苦々しく見つめながら声を掛けた。


「戸は閉めるから、先に入ってくれないか? 俺は聖剣とは相性が悪いんだ」


 アリオは警戒した顔のままで「ごめん」と言い、先に店の奥へ向かった。


 背の低い女性が全員に挨拶すると、エリアーデが彼女へ笑い掛けた。


「ドルンデさんも一緒だったんですね。頼もしいです」


「あんたには負けるさ」


 どうやら彼女は、この気風(きっぷ)の良い女性と顔見知りのようだ。


 アリオと黒いローブの男が、それぞれ距離を取って腰掛けると、シャーロットは「手短に説明する」と言って話し始めた。


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