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誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第1章 旅立ち
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第8話 魔王城


 ちょい出のくせに、なぜか友人たちの1番人気を勝ち取る魔王。


※2021/10/28より改行修正入れております。内容には変更ございません。



 雷鳴が轟いた。

 ここの空は常に曇っている。

 しかし、不思議なことに雨はめったに降らない。


 (つや)やかな濃い紫色の髪を持つ、その美しい少年は、黒い礼装を(まと)い、自身に似つかわしくない陰鬱な城の中を歩いていた。稲妻が走るたび、少年の銀色の瞳が煌めく。


 少年の歩く先、柱の影の暗がりから、突然、真っ赤なショートドレスを着た女が湧き出た。女の髪も瞳も、燃え上がるような紅に染まっている。


 その女の背中にはコウモリのような羽根が生えおり、よく見ると頭から山羊の角のようなものが2本覗いていた。黒くて細長い尾まで見える。


 少年は女に近づくのを嫌うように、少し離れた位置で立ち止まった。


 そんな少年の様子に構うこと無く、女はゆっくりと彼に近づき、両腕で抱き締めながら耳元へ(ささや)いた。


「ね〜え、シリウス。次の人間たちへのイ・タ・ズ・ラ、私に行かせて欲しいんだけど〜。魔王様に、取りなしてくれない?」


 シリウスと呼ばれた少年は、うざったそうに女の両手を振り払い、毅然と答える。


「必要であれば下知が下るだけだ。魔王様は、私の進言に耳など貸すまい」


 そう言い捨てると、女を背に再び歩き始めた。女は少年の背中が遠くなるのを見つめながら、背筋の凍るような笑みを浮かべる。


「……ふーん。そうなの。嘘〜つき〜…」


 城中に雷鳴が轟き、時折、稲光が城内をくっきりと写し出す。シリウスは長い廊下を抜け、何度か隠し通路を抜けた後、なんの変哲もない壁に手を当てた。




・~・~・~・~・~・~・~




 窓の外を覗く、白い銀髪が稲光に輝いていた。腰まで伸びているであろう、その美しい髪に、白い装束を(まと)った男は、冷たく光る金の瞳で、無表情のまま(たたず)んでいた。


『魔王様』


 突然、部屋に声が響いた。


 白装束を纏った男、魔王は、特に驚いた様子でも無く声の主へ返事をする。


「シリウスか。入れ」


 魔王がそう言った瞬間、部屋の中央に先ほどの美しい少年が現れる。シリウスはすでに跪き、こうべを垂れていた。彼は下を向いたまま報告内容を告げる。


「様子を伺って参りました。魔王様が世界を覗かれた通り、人心の乱れに"凪"が訪れております。城から遠く離れるほど、500年の時を取り戻したかのようです」


「そうか」


 魔王はシリウスを振り返ること無く、そう答えた。


 長い沈黙が訪れる。シリウスは俯いたまま、憂いを帯びた銀の瞳で魔王の背中を盗み見た。いつの間にか、窓の外では雨が降り始めていた。


「雨か。久しいな。10年ぶりだろうか」


 魔王が口を開くと、シリウスは特に相槌を打たずに目線を床へ戻した。彼は静かにシリウスの方を振り返り、鼻で笑う。


「いつも言っているが、跪く必要はない。顔を上げろ」


 そう言うと同時に空に稲妻が走り、逆光で魔王の影を深くする。顔を上げたシリウスは、魔王が微笑んでいることに気が付いた。


「待ちくたびれたが、ようやく聖剣の勇者が立ち上がる。この大陸の王国も、騎士の一族も、ほとんどが滅んだ。この乱れた世で誰が選ばれると思う?」


 魔王は嬉しそうに唇の両端を吊り上げる。シリウスは、魔王が心の底から楽しんでいることを知っていた。眉ひとつ動かさず、シリウスは魔王へ答える。


「聖剣につきましては、私には皆目見当もつきません。しかし、少々お耳に入れたいことがございます」


 その答えは、面白くなかったようだ。魔王は微笑みを再び無表情に戻すと、あまり興味のなさそうな様子で静かに尋ねた。


「なんだ?」


「フレアが痺れを切らし、ドロアーナの街へ向かいました」


 その報告に、魔王は不思議そうな顔をした後、ゆっくりと微笑む。


「そうか。わざわざお前に俺への取り次ぎを頼んだくせに、断られても結局は燃やしに行ったわけか。実に魔物らしい」


「ご覧になっていましたか」


 シリウスは顔色ひとつ変えず、そう答えるだけだった。魔王は再び窓の外へ視線を戻すと、自嘲気味に笑う。


 その眼下には、立派な城下町が広がっていたが、今は灰色に暗く沈んでいる。とても人が住んでいるようには見えなかった。


「ドロアーナの街…大陸の西端か。あそこはかつて良い港町だった。もう見る影もないがな」


 稲光が照らす銀色の髪を、シリウスは無表情のまま、ずっと見つめていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど修正か! 謎は全て解けました 世は全て事もなし
[気になる点] なんだかこの前の話と文章の成り立ち方が変わったような気がしました。 何処がとかはわかりませんが、この話と前の話って書いた日に間隔が空いてたりしましたかね? 旅立ちの回だから気合いが…
[一言] シリウス何者なのか気になります。
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