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誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第3章 地下神殿と砂の海獣
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第79話 精霊となること


 この話自体があれのパクりだよねー

 これに似てるよねー


 ……などと、作者はチキンなのでいつも冷や冷やしているのに、校閲を手伝ってくれる通称【1号読者】が「え? なになに? もしかしてアリオくん、オーバーソ◯ルしちゃうの?!」などと、かましてきました。


 危険な発言はやめていただきたい。あとなんでもジャ◯プ持ち込むのやめれ。


 それでは歌います。よみがー◯ーれー♪


※2021/10/28より改行修正入れております。内容には変更ございません。



 その夜、アリオは忍び足で2階の廊下を歩いていた。すでに月は沈み、星明かりだけが頼りだ。


 隣のエリアーデの部屋に辿り着くと、慎重に小さく3回ノックする。扉がゆっくりと開くと、アリオは彼女の部屋の中に滑り込んだ。


 エリアーデは窓側に置かれたベッドに腰掛けていた。口元に指を1本立てたまま、もう片方の手でアリオに部屋の奥に入るよう促す。アリオは後ろで部屋の鍵が閉まる音を聞いた。


 彼女がアリオを手招きした方の手を差し出すと、マーヤが現れて、部屋の床に大きな魔法陣を描いた。彼女はほとんど喋らないが、いつも手際良く魔法陣を繰り出す優秀な精霊だ。


 "夜光"の精霊である彼女は、光の精霊としては力の弱い部類で、幼女のような可憐な姿で庇護欲を掻き立てる動作をする。


 しかし、シャーロットによると"夜光"の精霊は幻を見せることもあり、魔力量が少なくとも、なかなか侮れないということだった。


 魔法陣が成立すると、床から部屋の天井に向かって1層のピンク色の光が水面のように通過した。マーヤはひと仕事終わったとばかりに額を拭うと、可愛らしく微笑んで姿を消した。


 エリアーデはホッとした様子で口元の手を下ろす。


「もう喋っても大丈夫。隣には聞こえないから」


 彼女は新しい魔術を覚えることに余念が無く、この魔術にアリオは心当たりがあった。


「ロティが『科学屋』で打ち合わせの時に掛けてるやつか。エリーはどんどん使える魔術が増えるな」


 彼に褒められて、エリアーデは嬉しそうに顔を赤らめた。


「ロティの魔術は魔力消費量がとても少なくて勉強になるの。生活魔術も豊富だから、著書を出してみたらって勧めてるところ」


 シャーロットの使う魔術はコスパが良いと最近話題になっている。実は彼女は魔導士として魔力が多い方ではないらしく、エリアーデを含めた誰もが、彼女の実力に驚いていた。


「それは良さそうだな。どこか座ってもいい?」


「ええ。もちろん、どうぞ」


 特に思うところもなさそうに、エリアーデはベッドに腰掛けたまま、隣に座るよう促した。


 アリオは一瞬躊躇(ためら)ったが、少し恥ずかしそうに俯くと、彼女の横に座り込んだ。彼女に全く他意がないことが、後ろめたさを余計に増長させる。


 しばらく沈黙が流れたが、アリオは弄んでいた両手を大人しくさせると、床を見つめたまま彼女へ尋ねた。


「で?3つ目の試練ってなんなんだよ?」


 彼女は困った表情になり、また沈黙が流れる。何かを迷っている様子のエリアーデを覗き込むと、彼女の水面のように澄んだ瞳が憂いを帯びていて、声が出なかった。


 しばらくすると「私から言おう」と声がした。


 眩しさに顔を上げると、目の前に金色に輝く美人が立っていた。この光の精霊はマーヤとは違い、日輪の如き輝きを放っている。夜中だと少し目に刺さるぐらいだ。


 隣の部屋からわざわざやって来たシャーリーンへ、エリアーデは首を横に振った。


「ううん。私から説明する。あなたは言葉足らずなところがあるから…」


「…そうか」


 光の美人は目の前の賢者へ微笑んだ。エリアーデもシャーリーンへ笑い返すと、意を決してアリオへ向き直る。


「アリオ。恐らく3つ目の試練を超えると、死ぬまで元通りにはならない…あなたは光の精霊になるの」


 ()()()()()と聞いても理解することができず、アリオはきょとんとした顔で、エリアーデへ聞き返した。


「俺が…精霊になる? …ってどういうこと?」


「私とお前が、同期するということだ」


 シャーリーンがそう付け加えたが、彼は分からないという表情でエリアーデの水色の瞳を見つめた。


「えっ…? 全然分かんないんだけど??」


 エリアーデは寝巻きの生地を手で握り締めながら、喉から絞り出すように説明していく。


「『導きの聖本』を読んで、なぜ聖剣の勇者は光の精霊の末裔に限られるのか疑問だった。けれど、マシューさんの言葉をよくよく考えたら、ごく自然なことだったの…つまりね」


 ひと呼吸置くと、彼女は上目遣いで言いづらそうに目を合わせて来た。


「シャーリーンと聖シアンは魂が一体化していて、聖シアンは人間でありながら()()()()()()()()()()ってこと。だから、聖剣は持ち主が死んでからしか後継者に引き継ぐことが出来ない」


「…その通りだ」


 シャーリーンがエリアーデに同意して頷くと、再び沈黙が流れた。理解に追いつこうと、アリオは目を瞑ると頭の中で言われたことを反芻(はんすう)する。


「あ…あの時、猫の王が……」


 ふと、猫の王が『魂を賭けよ』と言ったことを思い出し、目をパッと開くとエリアーデの方へ向き直った。


 目が合うと彼女は頷いた。


「そういう意味だったのか…でもシアンは、持ち主である叔父のイヴァンが死ぬ前に聖剣を受け継いでたよね? それはなんで?」


「……それは…」


 エリアーデが答えに詰まると、シャーリーンが代わりに答える。


「カヴァリエ家から提案されたルールだ。高齢や持病で持ち主の死期が近づいている場合は、持ち主が死んだ場合と同様、10〜18歳の者から後継者を選ぶことになっていた。ただし、3つ目の試練だけは持ち主が死ななければ達成出来ない。どちらにしろ、魂が繋がっている私が離れると持ち主の死期は早まるがな」


 そういえば『導きの聖本』にシアンの叔父は持病で亡くなったという記載があった気がした。シャーリーンの説明にアリオが納得すると、エリアーデはもう1つ大事なことを説明した。


「それと、このことが分かった理由はもう一つあって。…魔槍ガランネオルの属性は闇。だからこそ魔物や精霊に最も特攻効果のある聖遺物の一つだけど、光の精霊との相性は最悪。魔王城に乗り込む頃にはソーヤも聖シアンも相当な実力者になっていたはずだから、お互いほとんど近付けなかったと思う」


 それを聞くと、アリオはなんだか胸が締め付けられるような思いだった。


「大賢者は、なんでそんな聖遺物をソーヤに采配したんだ?」


 噂好きなアインの国民の間では、ソーヤ・グラハムの想い人がシアン・カヴァリエだったというのは周知の事実らしい。その話が本当なら、大賢者ともあろう者が気付かなかったとは思えなかった。


 しかし、エリアーデの言葉にアリオは愕然とすることになる。


「効率を重視したんでしょ? ソーヤ・グラハムは元々槍を扱ってたみたいだし、魔王討伐隊の中でも随一の実力者だったわけだから」


 少しも疑問に思わない様子で、彼女は彼へそう答えた。それを聞いたアリオは、信じられないという表情で彼女の顔を見つめる。


「…ちょっとは他人の気持ちとか想像しないの?」


「何? 怒ってるの?」


 エリアーデはよく分からない様子だった。さっきまで何に悩んでいたのだろう。


「もし俺が光の精霊になったとして、エリーが闇の力を手に入れたら最後、こうやって隣に座って話も出来ないわけだろ?」


「うん。それで?」


 アリオは唐突に自分が()()()()()()()と聞いて、とても混乱していた。自分は人間では無くなるのだろうか。


 先を促すエリアーデに対し、諦めたように深くため息をつく。


「俺だったら、そんなのは嫌だよ」


 エリアーデは酷く動揺した。彼がなぜ500年前の2人のことを引き合いに出してくるのか理解できなかった。


「え…だって、それでも魔王は倒さないといけないんだよ? 2人とも分かっててそうしたんじゃないの?」


 彼女は至極真っ当な説明をしたが、何を言おうが取りつく島もない。


「分かってても、俺なら絶対に嫌だね。もうちょっと考えてみなよ。俺とこうやって話せなくなったらどう思うか」


 アリオはそう言うと、シャーリーンに向き直った。


「あれだけ精霊に愛されてた大賢者が、今は精霊たちに愛想を尽かされてる理由が分かる気がするな」


 光輝く美人は、かつて一緒に戦った大賢者のことを思い出すと、無言でアリオへ頷く。


「エリーも、そうならないように気を付けろよ」


 彼はそう言い捨てると立ち上がり、戸の鍵を手で開け、シャーリーンを連れて部屋を後にする。


 エリアーデは閉まった戸を呆然と見つめていた。


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