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誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第3章 地下神殿と砂の海獣
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第78話 3人の帰り道


 今日のホームやるのかな。そして、さすがに今日はちゃんとご飯つくる(決意)


※2021/10/28より改行修正入れております。内容には変更ございません。



 もうすぐ沈みそうな月明かりの夜道に、3人分の影が伸びていた。この世界唯一の月の満ち欠けは、ナズナたちの元の世界と良く似ているらしい。


 外の世界には月が3つあったが、そのうちの1つと動きが全く同じであることが不思議だと、エリアーデが以前そう言っていた。


 彼女と仲良さげに話すマックスを見て、アリオはやはり納得の行かない様子で言った。


「マックス、やっぱり来ない方が良いよ」


 いつまでも許しくれないアリオに、マックスは心外だという様子で答える。


「なんでだよ? この国に生まれたら、1回は試さないとって言うだろ」


「それは…知らないけど。マックスは、別にこの国生まれじゃないだろ?」


 面白くなさそうなアリオに同情した様子で、エリアーデは仲裁に入った。


「まあまあ。ロティが言っていた通り、マックスの配置は1番安全な『書籍の間』だから、多分大丈夫。この街で1番の古本屋『アジフ古書』のアジフさんが、1ヶ月に1回は侵入してるって話だから」


「あの爺さん、そんなに元気なのか…」


 『アジフ古書』といえば、エリアーデやマシューのご用達の書店だ。書店通りで一際異彩を放つその店を、アリオはよく覚えていた。


 この国特有の石造りの建物ではなく、レンガ造りに屋根瓦のある屋敷が店舗で、建物の管理費にかなり掛かっているらしい。高齢の店主が何処から書籍を仕入れているのかは謎だが、探しているものが必ず見つかると評判の店である。


 マックスが笑いながら頬を掻く。


「でも、そのアジフ爺さんからの情報なんだろ?

『書籍の間』は1番安全な代わりに、人工精霊じゃなくて概念の魔物が書籍管理してるって話……俺もちょっと自信ねーな」


 じゃあ行くなよと、アリオは喉元まで出掛かった。しかし、羨しそうな表情のエリアーデに先を越された。


「楽しそうで良いじゃない。ナズナさんが元の世界の言語の本を探すの、とっても興味あるのに……」


 つまらなそうにため息をついても、彼女は(さま)になっていた。彼女がその辺りの泉の精霊なのだと言われても不思議に思わないだろう。もっとも、この国唯一の泉の精霊はろくなものではないが。


 2人がエリアーデに見惚れていると、彼女はいよいよ地平線へ向かう月を目で追い掛けている。時折、コウモリの舞う影がちらついた。


「そんなことより、選定の間でユリアンさんと戦闘になるかもという方が心配……」


「ああ、それは確かに………」


 アリオとマックスは青ざめると、声を揃えて同意した。シャーロットの説明によると、宝物殿は本来ゴージャ王と猫妖精(ケット・シー)しか入れない。


 そのため、『選定の間』より先にある古代文明の通路に入ると、猫妖精(ケット・シー)以外は侵入者を追撃しないルールになっているとのことだった。


 しかし、ゴージャ王が増設した通路はそのルールに該当しない上、魔力感知の魔術が掛けられている。


 それに引っ掛かれば、通路への追撃はもちろんのこと、『選定の間』では、駆け付けたユリアンが確実に待ち構えているということだった。


 不安げなエリアーデへ、アリオは自分を奮い立たせるように問い掛けた。


「でも、アジフ爺さんから、いつも使ってる手は聞いたんだろ?魔力感知を一定時間停止させるっていう魔道具」


 窃盗手段などあまり知りたくはなかったが、知れば知るほど、アジフ(おう)は只者でないと分かる。


 自分の探究心を満たすため、若い頃から宝物殿で略奪を繰り返しており、捕まった回数も1度や2度ではないらしい。


 他の犯罪に手を出したことはないようだが、彼が略奪の常習犯だということは、アインでは暗黙の了解となっていた。


「…………うん。たぶんロティが入手して、当日各班に配布すると思うんだけど、効き目は15分って言ってたかな。つまり、15分で通り抜ければユリアンさんとは遭遇しないってこと」


「たった15分かあ。うわー…」


 マックスが心配そうな顔をしたが、家へ出る角を曲がると彼は目を見開き、慌ててアリオの背中に隠れた。前を見ると、下宿先のパン屋には明かりがついており、家の前には誰かが立っていた。


 エリアーデは焦った様子で、その人物へ声を掛ける。


「ノニールさん! あの…もしかして待ってて下さったんですか?」


 パン屋の入り口に背をもたれていたのは、マックスの兄のノニールだった。


「マックスが部屋を抜け出したから、何かと思ってね。お前、部屋の窓に防犯用の魔力感知の術式が張ってあるの忘れてただろう」


 マックスはしまったという顔をする。彼には魔力が全くなかったので、術式を通過しても気が付かなかったのだ。


 アリオとエリアーデは横目で彼を見咎めた。マックスは冷や汗をかいていた。


 怒られるだろうかと心配したが、ノニールは3人に明るく笑い掛けると店の扉を開ける。マックスがアリオたちの行動を意識していたことに、彼の兄は以前から気付いていた。


 どうやら若者特有の出歩きだと思われたようだ。


「まあ、どうせアリオたちのことが気になったんだろうと思ってたさ。父さんと母さんは誤魔化しておいたから、今度から気を付けろよ」


 3人はホッと胸を撫で下ろし、彼に促されるがまま家の中へと入った。


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