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誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第3章 地下神殿と砂の海獣
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第76話 紅茶葉


 明日からホーム……天気があれですが。紅茶より緑茶派です。でもこの小説の登場人物は、紅茶中毒者が多い印象ですね。


 しかーし! どう考えても発酵技術が発達してないので、この世界で一般的に飲まれているのは緑茶です。たぶん。


※2021/10/28より改行修正入れております。内容には変更ございません。



 略奪計画の解説は、大賢者対策として新設された通路の話に差し掛かっていた。500年前、地下通路から『選定の間』までの間に、ゴージャ王が新設した通路のことだ。


 その先の古代文明が仕掛けた罠より難易度が低い代わりに、この通路にはある呪いが仕掛けられている。


「……この呪いは非常に単純だが、その場で解除できない強力なものだ。たとえば最初の通路でスッカルの道を選ぶと、スッカルの花が咲いている『武具の間』には入れなくなる。古典的だが、実効性の高い魔法で、効力は1週間ほどといったところだ」


 アリオはそれを聞いて、良く出来ていると感心した。それぞれの広間に咲く花の種類は、一般人でも知っているぐらい有名な情報だ。


 下調べをしていない盗賊は、花の絵柄で通路を選んでしまうに違いないが、その時点で目的の広間への道が閉ざされるようになっていた。


「そのため、侵入を予定していない


『武具の間』のスッカル

『芸術の間』のカトレア

『宝飾の間』のクローバー


の通路をそれぞれ使用する。各チームが入る通路は、当日に指示するつもりだ。以上、質問は?」


 全員しばらく考え込んだが、アリオ以外は首を横に振った。アリオは眉間に皺を寄せて何か考え込んでいる。先ほどのサラマーロの話から、妙に引っかかっていることがあった。


 シャーロットは(いぶか)しげに彼へ尋ねた。


「どうしたアリオ? 言ってみろ」


「……いや。さっきから引っかかってて。ここまで出そうなんだ。なんだったっけ? なんか凄く短い童謡で、似たような歌が…」


 不安げにそう呟くと、シャーロットはエリアーデやサラマーロ、マックスと順番に目を合わせた。全員が何のことか分からず、首を横に振る。


「テオがよく歌ってたんだ。サラマーロが話してたみたいな歌詞を、思い出し笑いみたいに。鏡にオリーブの花が映って…そう……使っちゃいけない通路が…」


 エリアーデは「そういえば」と呟くと、アリオを後押しした。


「ゴージャ王が言ってたね。テオドール老師も若い頃、好き放題やってたって」


 ゴージャ王や『導きの聖本』によると、テオドールは若い頃、大賢者同様に王を悩ませていたようだった。


「ああ。そういえば…若い頃って10年くらい前かな? ………ダメだ、やっぱり思い出せない」


 アリオは首を横に振る。顎に人差し指を当てながら天井を見上げていたサラマーロは、不思議そうに呟いた。


「そのテオドール老師が何歳だったのか知らないけど、20年くらい前なんじゃない?私の記憶には、そんな大騒ぎないから」


 思ったよりずっと深刻な表情になったシャーロットは、小さくため息をつくとアリオへこう言った。


「分かった。嫌な予感がするから思い出したら教えてくれ」


 彼女は何か考えている様子だったが、おそらく頭の中で堂々巡りになったのだろう。気を取り直すと、全員へ質問事項がないか尋ねた。


「…さて。他には何かないか? 一応国内だから、宝物殿の中に居る者同士は通常の通信魔術で会話可能だということだが、局所的に使えない可能性もある。何かあれば実行日までに私へ聞きに来てくれ」


 説明が一通り終わると、場の空気を和らげようとナズナが立ち上がった。


「緑茶でもお淹れしますね。あと柑橘類のシャーベットがあったような…」


 しかし、ベルガー医師はそれを辞退した。


「私はこれで失礼するとしよう。明日の診療がある」


 医師はおもむろに立ち上がると、全員へ会釈する。ナズナは医師に挨拶だけすると、紙を貼り付けた格子状の不思議な引き戸を開け、店の奥へと入って行った。


 いつも通りつれない態度の医師へ、シャーロットは不思議そうに尋ねる。


「おや? 明日はあなたの担当日ではないのでは? だから今日を打ち合わせ日にしたんですが、記憶違いなら申し訳なかったな」


 早く帰りたい様子の医師だが、さすがに申し訳なさそうに対応した。


「いや、君は悪くない。久しぶりに出ようと思っただけだ」


 そう言うと、医師は何か思い付いた顔になった。あまり感情を出さない彼が、少し感傷的な表情を見せた気がして、アリオとエリアーデは心臓がひくついた。


「……そうだ、ブラウン君。君の紅茶を少し分けて貰えないか?」


「喜んで。お包みするので少々お待ちを」


 何か言いたげだったシャーロットは、ナズナを追って店の奥へと消える。間を取り持とうと、クリストファーがベルガー医師へ笑い掛けた。


「そうだ、前に勧められた予防接種、やっぱり受けようと思うんだけど、2週間後の都合はどうだい?」


 医師は再び無表情に戻ると、彼の方を見ずにこう言った。


「メイリンに頼んでおこう」


「僕は、あなたにやって貰いたいんだけどなあ」


 クリストファーがそう追い(すが)ると、医師は感情の読みづらい精悍な顔付きで、彼の瞳を見つめた。しばらく2人は見つめ合っていたが、先に根を上げたのはベルガー医師だった。


 人の良さそうなクリストファーの青い目に耐えかねたのか、ため息をつくと彼へこう言い返す。


「…あまり困らせないでくれたまえ。私ももう歳だ。育てた医師たちに引き継ぎも十分行って来た。君の都合の合う日に居る者に任せてくれ」


「そうかい。じゃあ1週間後は?」


 どうしたものかという顔をする医師へ、クリストファーはさらに食い下がる。


「…計画実行後の方が良いだろう」


「…………分かったよ。困らせて悪かった。メイリンに伝えておいてくれ」


 ベルガー医師が彼へ頷くと、シャーロットとナズナが店の奥から出て来た。ナズナは全員に緑茶とシャーベットを振る舞う。


 医師はシャーロットから紅茶の袋を受け取ると、店の出口へと向かい、彼女がそれに付き添った。


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