第63話 爆発する聖遺物
今日の朝ごはんはピタパンを予定しています。なぜ予定なのかというと、この投稿が予約だから。そう、予約投稿を覚えたのだ。
※2021/10/28より改行修正入れております。内容には変更ございません。
その爆発音はチャーリーにも聞こえたらしく「どうした?!」と声を掛けられたが、2人はそれどころではなかった。
街側のバルコニーに駆け寄ると、城壁の向こう側で黒い煙が立ち上っている。幸い、砂鯨たちの姿は見えなかった。城の移動がない時は、放していることが多いのだ。
「エリー! 頼む!」
「私も行く! 風よ!」
アリオとエリアーデは3階のバルコニーから飛び降りる。フランシスが現れてエリアーデの手を取ると、アリオも一緒に風に包まれた。
「着地は自分でやれ」
白く透けた少年は、相変わらずアリオを毛嫌いしており、目も合わせずにそう言った。少しイラッとしたが、アリオは頷くと、慣れた様子で地面に飛び降りた。
フランシスはエリアーデを抱き抱えて着地すると、ゆっくりと彼女を地面に立たせる。彼女は少し困った顔で、風の精霊へ呟いた。
「フランシス、私も着地は自分で出来るけど」
「君が怪我をするといけないからね」
アリオは嫌そうな表情で2人の会話を気にしていたが、もう一度爆発音がした途端、構わず走り出した。
「あ! 待って!」
慌てて彼の後を追う彼女に、フランシスが浮いたまま並走する。この1年でアリオはかなり足が速くなったので、流石に追い付くのは難しい。エリアーデは走りながらフランシスへ指示した。
「先に行って、アリオの援護を!」
フランシスは無表情で頷くと姿を消した。
アリオが城壁に辿り着くと、すでにゴージャ王とユリアンが到着していた。中央通りの建物からは人々が出て来て、心配そうに王の様子を見守っている。
城壁に等間隔で据え付けられている物見台には、数人の兵士が交代で常駐していたが、そのうちの1人が王へ状況を報告していた。上を見上げると、珍しくダミアンも登っているようだ。
王はチラっとアリオに目をやると、目線を目の前に戻した。
「爆発する聖遺物は約30年ぶりだ。一度で爆発が終わることもあれば、何度か続くこともある。お主は中で待っていろ」
そう言うと城壁に手を翳す。いつもの鎧戸の正門は現れず、王は自分が通れるくらいの大きさの魔法陣を青い焔で描いた。
「お待ち下さいゴージャ王! 我々に外出許可を!」
声に振り返ると『科学屋』のシャーロットだった。
「『科学屋』…そうか、ここから近かったな」
ゴージャ王は2人の乗る謎の乗り物に目をやりながらそう呟いた。アリオは一度見たことがあるが、2つの車輪で動く"自転車"という乗り物らしい。
「電動自転車の部品が聖遺物に該当しなかったのはラッキーでしたね」
そう言いながら、シャーロットの後ろからナズナが顔を覗かせた。どうやら自転車には2人乗ることが出来たらしい。後ろからあくせくと、クリストファーとオムが走って来る。
「カブのエンジンが宝物殿行きになったのはついてなかったなあ…!」
「全くだな!」
2人は息も絶え絶えに城壁まで辿り着くと、クリストファーが呼吸を整えながら王へ進言した。
「…あの…爆発音には心当たりがあります! もし同じ年代の物…がいくつも流れ着いているなら…い…いきなり外へ踏み出すのは…危険です!」
王はクリストファーの真剣な瞳をしばらく見つめると「良いだろう」と言い、『科学屋』の一行に先を譲った。
クリストファーは魔法陣の前に立ち、しばらく息を整える。彼の額から冷や汗が流れた。静かに息を吸って吐くと、隣に立つシャーロットへ語り掛ける。
「ロティ。僕は魔法なんて、まだこれっぽっちも信じてないし、いつか全て科学的に解明しようと思ってるけど…君のシールド、本当に信用して良いんだね?」
彼女は面白そうに彼を嘲笑った。
「君は信じてない物を信用するのか?」
「……君を信じるよ」
緊張した様子で彼が喉から声を絞り出すと、シャーロットは鼻で笑った。
「冗談さ。君のミリオタぶりが初めて役に立つんだ。私もこの国に流れ着いた幽霊の1人として役に立とうじゃないか」
彼らの交わす会話には大抵知らない言葉が混ざっていたが、何やら相当危険だということだけは、アリオにも理解できた。
シャーロットが魔法陣へ踏み込むと、クリストファーとオム、そしてナズナが続く。
ゴージャ王、ユリアン、アリオは顔を見合わせて頷くと、その後を追った。




