表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第1章 旅立ち
6/601

第6話 失っていた気持ち


 校閲を手伝ってくれる人からサンドイッチが美味しそうで気になると言われました。


 自分も気になってる。


※2021/10/28より改行修正入れております。内容には変更ございません。



 テオの指示でアリオは街を一周し、颯爽と橋の下へ戻って来た。すでに3つ目のサンドイッチを頬張っていたが、テオは彼の方へ向き直る。


「ほうだ?」


 口をもごもごさせながら街の様子を尋ねたが、パンがごわごわして上手く声が出なかった。アリオはあからさまに舌打ちすると、その可愛いらしい顔を、これ以上ないくらい歪める。それでも報告をしてくれるところが、彼のまた可愛いところだ。


「テオの言う通りチャーム無しもみんな、なんか笑ったり、楽しそうにしてる。殺しもまだ起きてないし、死体を埋めたり、怪我人を介抱してるやつを何人か見た。騒ぎは朝1番に起きた、カーサスのとこだけだった」


「そうか。ついに、この日が……」


 サンドイッチを飲み込むと、汚らしい水路を見つめながら静かに呟く。どれだけ汚い水でも、日中はキラキラと光を反射していた。隣で不貞腐れている少年は、果たしてそれに気が付いているだろうか。


 隣に腰掛ける髭面の中年男が、言葉の続きを言うのを、アリオは大人しく待っていた。しかし、彼はどこか懐かしそうに遠くを見つめ続けるだけで、何も言わない。いつもなら説教でも始まるところだ。


 手持ち無沙汰になったアリオは、残りのサンドイッチを頬張ることにした。


 そして、不思議なことが起きた。


 一口かじると、心の中に暖かい気持ちが溢れるような気がした。ララのサンドイッチはいつも美味しかったが、今日は一味も二味も違う。ララやカーサス、テオのことを考えるとたまらなく嬉しくなる。こんなことは今までなかった。


――そうか?


 これは、この街に来る前に、知っていた気持ちではないだろうか。ここに来て3年、毎朝、悪臭の漂う水路を眺めながら、こんな世界が早く終われば良いと思っていた。


 目の前の水路は、相変わらず悪臭を放っていたが輝いて見える。いつもの景色が綺麗だ。この世界にこんな喜びがあることを、忘れていた気がした。


 この気持ちは、なんだろう。

 なんて素晴らしいものだろう。


 ふと、テオも同じことを考えているのだろうかと思い、アリオは彼の顔を覗き込んだが、彼の表情はよく読み取れない。しばらく黙り込んだ後、テオは再び真剣な眼差しを取り戻し、こう指示して来た。


「アリオ、ララをここへ連れておいで。市が開かれるまで宿屋よりは安全だ。今日という日は長く続かない。おそらくまた反動が現れるだろう」


 言っていることが、アリオにはよく分からなかった。よく分かってなさそうだな、とテオは思ったが、アリオの顔から、いつもの無表情は消えていた。


 宿を後にしてから、頭を覆うフードが外れていることにも気が付かず、キラキラした瞳で街の笑い声に耳を澄ませている。そんな少年らしい姿に気が付くと、微笑ましくなってしまう。テオは思わず吹き出してしまった。


「アリオ、その気持ちは魔力のある人間や、心の強い人間、チャームが良く効いている人間が、普段感じているものだ。お前には良いチャームを持たせているんだが、この街に来てからは、なかなか感情を(あら)わにしないので心配だった」


目の前の少年は理解しているのかどうか分からなかった。しかし、今日は幼い頃のように、しきりに頷き、その輝く瞳は先を促している。


「……その気持ちは、500年前まで、ほとんどの人間が待ち合わせていたものなんだ。絶対に忘れるな」


 忘れたくないと思った。


 いつもテオの言わんとしていたことが、アリオはなんとなく分かった気がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 勇者たちが関係してる? 陰鬱だった町の描写が急に色づいたものに変わる、こういうのいいですね。
[一言] 私もサンドイッチが気になり始めました。
[気になる点] ちゃ、チャームとは何です?(汗)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ