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誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第6章 ヒト創りし人外都市
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第577話 落ちる街並み


 今年も阪神は良い夢を見せてくれました。ありがとう、阪神。


※作者都合により、次話更新日を変更致します。誠に申し訳ございません。詳細は後書きを参照下さい。



 隠蔽に使われていた魔術迷彩が砕け散り、平野に浮かんでいた巨大な球はバラバラに切り開かれ、その内部を(あら)わにしていた。500年閉じられていた都市ノルンは、ただただ自然の摂理に従い、あるべき大地へと急速に引き寄せられている。見下ろすバレアナイ山脈の白い尾根が、その麓の農地が、みるみる視界に広がってゆく。


「エリー! シアン! 一体何したんだ!?」


 風圧に逆らって覗き込んだエリアーデの顔は、落下とは別の恐怖で、一点へ釘付けとなっていた。見上げた空にレディ・チャサラが。


――あの人、光ってる?


 朝日のせいかもしれないが、服から覗く彼女の白い肢体が淡く照っているように感じる。身体を抱き抱えるように手を差し出す魔法使いが、浮かせているようにも見えた。


 いや、今はそれどころではない。シアンがこれをやったのだ。一体どうするつもりなのか。


 流れる銀髪へ視線を移すと、笑っているのか泣いているのか分からない顔が目に入った。彼女はエリアーデとは真逆、眼下に広がる大地をひたと見ていた。その先に。


「門番さん! 危ない、早く逃げて!」


 ここからでもはっきり見て取れる鶏冠(とさか)に向かって、力の限り声を振り絞る。風がそれを、あっという間に掻き消した。


「おい」


 シアンが口を開いた。一瞬、自分に向かって話し掛けたのかと錯覚したが、その声は先ほど手を貸してくれた、ある者へ向けられていた。


「アリオから500年も面倒見たって聞いたぞ。重力の魔物、聞こえてるだろ? まだノルンを支える気があるなら、あの門番に手伝わせろ」


 そうだ。都市ノルンの重力は、魔法使いが作ったものでは無かった。彼女の言葉に呼応するように、気配。


「なんだ。こうまで壊しておいて、まだ都市でありたいと願うのか」


「生き物っていうのは愚かなんだ。よく知ってるだろ?」


「この世で最も愚かな魔物を生んだ者が、良くそんなことを言えたものだ」


 姿を現しているというのに、宙に暗闇を作る魔物を見て、シアンは力無く微笑んだ。


「違いない」


 重く実態の無い()()は、水平線から差す光を浴びてもなお、空間を黒塗りにするばかり。しかし、それが確かに頷くのを感じた。


 嗚呼。まだ気を失っていない者は、天高く(そび)える山頂を見上げた。


 瞬間。光り輝く軌跡。


 門番の鳥男を中心に、農地の端から端まで術式が走り出し、その閃光は太陽ごと都市を包み込んだ。そのなんと暖かいこと。


 嫌な浮遊感は消え失せ、落下は明らかに失速していた。ゆっくりと確かな足取りで地面との距離が縮まってゆく。


「話で聞いただけの重力の魔物が、助けてくれるって分かってたの?」


 不確かにもほどがある。自分の問い掛けに、シアンはまた微妙な表情を作った。


「賭けたんだよ。500年もノルンの地面を維持したんだ。あの魔物は、きっと()が良い」


 それは確かだった。そして彼女は、こう付け加えた。


「それにしても、豊穣を願う魔術か」


「え?」


「先にノルンに入った時、あの門番、農地全部に毎年敷いてるって言ってたんだ。安全祈願のお祈りみたいなもんだってさ」


 どうりで暖かいわけだ。この温もりは、重力というより術者の想いを感じる。


「その術式に、重力を調整する魔法を走らせたのか……じゃなくて! 結局どうなってるの?」


 寂しい表情をするシアンに、ただならぬ様子だけは察していた。すると、空を見上げたままのエリアーデがぼそり。


「チャサラさんは本物のアンデッドです」


「え?」


 視線の先にあるレディ・チャサラの身体は、少し高い場所に浮いたまま、宙にピタリと寝かされていた。その胸の上に、落ちている時には無かったはずの輝き。鎖で繋がれた2つの……。


――2つの斧……双斧! ノルンが解放されたら出てきた……? 生きた死体……魔法使いだから出来る……のか?


 まさか。頭の足りない自分でも、繋がるものがあった。風の精霊に命じ、無言のままシアンは幼馴染2人の元へ舞い上がる。


 ぎゅっと目を瞑ったエリアーデの目尻から、大粒の雫が溢れ落ちた。


「チャサラさんの魂を固定していたのは、双斧と閉鎖された都市の結界です」


 私、また役に立てなかった。そう俯くエリアーデを見て、頭の中が急沸した。


「これも分かっててやったのか」


 気持ちの整理もつかぬまま、彼女を睨み上げた時、ぐにゃりと辺りの空気が変わる。世にもおぞましい何かの気配。なんの前触れもなく充満したこれを、自分は知っていた。何故知っている。そうだ、あの時に。


「はぁーい、やっと双斧発見。さすがシアン様、(わたくし)、ますます好きになってしまいました」


 全身に鳥肌が立つ、その甘ったるい撫で声は、両手に双斧を優しく抱え、奪い取った戦利品に笑っていた。



【お知らせ】

※更新頻度は今後の仕事予定と相談中です。

・次回更新日: 2024/10/12(土)予定

・更新時刻: 20時台予定


※予定の変更がございましたら、Twitterアカウント(@medaka74388178)にてご報告させて頂きます。


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