第557話 岩使いのドルンデ
また投稿が若干遅れてしまい、申し訳ありません。ここからが勝負です。
「アリオ、状況を教えて」
いつの間にかエリアーデが追い付いていた。星のように宙を煌めく砂の精霊を使い、次元の切れ目を次々に塞ぎ始める彼女。ギリギリこちら側へ現れた魔物たちを斬り捨てつつ、今起きていることを彼女へ伝える。
「この蔓が、伯爵邸の上層階へ行くための結界らしくて、魔物から集中攻撃を受けてる」
うん、と首を縦に振るエリアーデ。
「私が魔物の出現を防ぎます! 次元の裏側の魔物はチャーリーとマシューさんが」
この場には自分とエリアーデ以外に、ロムリナス行商連合エルントス団長、ドワーフのドルンデ、奴隷を喰うことで悪名高いガルム男爵、そして500年前の勇者シアンが揃い踏みしている。無数の相手をしなくて済むと理解した途端、ドルンデから殺気が溢れ出た。
「全員動くなよ! これで片付けてやる!!!」
肌がビリビリと震える。着地した地面から、血管へ逆流するような魔力がふつふつと湧き出る。
「古代魔法と現代の魔術の組み合わせ!? これがドワーフの魔法……」
目を点にして呟くエリアーデの足元には、ドルンデの使役精霊である雷電が魔法陣を描いている。術式を使って精霊を安定出力で使役するのが魔術。しかし、彼女はこれを古代魔法だと感じているようだ。その理由は自分の身体にも刷り込まれていた。分かる。確かにこれは古代魔法だ。ドルンデが契約している岩石の精霊にとって、最大出力の詠唱が来る……!
それは岩に沁みる水の如く静かだった。
「針織りなす鉱山」
醜い断末魔で耳が裂けるかと思ったのだが、本当に根元から裂けてしまったのかもしれない。地面から天へ突き出した針山で視界は覆われ、誰一人として微動だに出来なかった。
静けさを永遠のように感じたものの、その1本1本に宿る意思が、もう十分だと悟ったのか、沈黙を破るように地面へ引っ込んだ。
「ありがとう、ドルンデ。あなたが居なければ、時間を浪費するところだった」
すぐに口を開いたのはシアンだ。彼女と目を合わせるドルンデは、くすぐったそうに鼻を指で擦っている。
「今のでもう、戦力外だと思っといてくれ」
「首尾はどうだ?」
「あー……断られちまったぜ。行商連合の頭だってのに、ろくな交渉にもなっちゃいねぇ」
エルントス団長は、このドワーフ適当言いやがる、とでも言いたげな顔だ。
「交渉前にこいつらが結界を壊し始めたからよ。これで少しは恩を売ったつもりだぜ?」
団長は「どうなんだよ?」と無いはずの建物5階以上を見上げる。
『私は双斧を所有などしていない』
ほらね、とばかりにエリアーデへ振り返る団長。押し黙る彼女をさておき、少しでも有利にしようと交渉を再開する。
「結界修繕の時間稼ぎをした分、ここは少し融通して貰えないでしょうか? 話を聞くだけでも」
『西の最大都市ドロアーナが、広く難民を受け入れると聞いている。売れそうなものを融通するよう手配しよう。ドワーフの魔法技術士を派遣しても良い。あの街は水道処理に難があるはずだ』
その申し出に、チャーリーの碧い瞳が輝いたが、その希望は一蹴されてしまう。シアンによって。
「悪いがチャーリー、この交渉はご破算だ。本当に悪いな、ここまでしたのに。エルントス団長、そしてメリアル」
どうやって片腕で支えているのか分からないほどの大剣を、彼女はすっと伯爵邸へ構えた。そして視界から消えた。
――上だ!!!
見上げた夜空の月は、冷や汗をかいたような困り顔をしている。絵画のようにくっきりと、彼女の黒いシルエットが映り込んでいた。
『シアン、やめろ……!!!』
「安心しろ、ちゃんと無人の所を狙う」
無慈悲に振り下ろされた大剣は、半月のような衝撃派を一瞬で地面へ走らせた。斧で丸太でも切ったのかと思ったほどだ。キィンという軽い音とは裏腹に、地面と建物には1本の亀裂が入り、そこからハラハラと植物の蔓が剥がれ落ちてゆく。
すると、後方からズシン……という崩壊音が遅れて届き、地面がゆらゆらと蠢いた。背後へ向き直ると8階建ての建物ではなく、下4階層を失った上層階が地面へ落ち、噴水越しに土煙を上げている。
「シアン様」
スタスタと母屋へ歩き始めたシアンに、エリアーデが声を掛けるも、返事は無い。他の面々と黙って顔を見合わせると、各々の考えで彼女の後ろを付いて行く。やがて玄関の無い上半分の建物へ辿り着くと、彼女は高らかに言い放った。
「メリアル、勝負だ」
【お知らせ】
※更新頻度は今後の仕事予定と相談中です。
・次回更新日: 2023/5/22(水)予定
・更新時刻: 20時台予定
※予定の変更がございましたら、Twitterアカウント(@medaka74388178)にてご報告させて頂きます。




