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誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第6章 ヒト創りし人外都市
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第545話 切れ目


 今期アニメは「ぶっちぎり?!」も面白いと思ってますが、見る人を選びそうな作品ですよね。毎話サブタイ考えてる人が同世代すぎてツボなんですが、さすがにあのノリで、この話数のサブタイ作り続ける自信が無いので、自分ではやらないんだぞー!!!



 獣人の(さが)に抗うこともなく、静電気よりも鋭くゲリナスの毛は逆立っていた。


「爺さん。この線、この1本だけっすか?」


 全身で警戒を示す彼女とは対照的に、無風の水面の如く落ち着き払っている、年老いた人狼。


「そこは勘が良いな。手伝ってやる」


 辺りに嫌な気配が立ち込めると、まるで景色をカーテンにでもしたように、魔物が首をぬっと覗かせる。


「やっぱり。これは何なんすか?」


 戦闘体制を取る彼女の疑問に今すぐ答えてやりたいが、丁寧に説明している場合ではなくなってしまった。


「お爺さん、彼女は手足が命の職種なの。私が補佐するから前衛をお願いできませんか?」


「月光魔法酒があれば融通しろ」


 きらりと人狼の目が光る。なるほど、お目が高い。この老狼がのこのこ出てきた理由に、ゲリナスも気付いたらしい。


「月光魔法酒って……新月にも月光の魔力が得られるエルフ製高級酒っすね」


 にまっと歯を()くと、経理担当でもある自分へ彼女は目配せしてくる。分かっている。


「うちにある分、お好きなだけご用意致しますわ」


「良いだろう、この都市にはまだ恩がある。他はともかく、この魔素の付いた切れ目が魔法陣の起点になるのだろう? 何、俺だけで十分だ」


 ようやくこの人狼の獣らしい表情を見られた。にいっと口を裂くその笑顔は、ゲリナスの顔より極めて獰悪(どうあく)で、何故(なにゆえ)孤独に野良などしているのかを、痛いほど物語っていた。


 人狼が尾をひと振り。それだけで周囲の()()()()()が切られていた。十ほどの魔物の首がぼとりと落ち、やがて魔力の身体は魔素として空気へ溶け出し、粉のように霧散する。


「小娘は妖精の補佐に集中しろ。さっさと()()()()()()、妖精」


 人狼のお陰で見えるようになった割れ目を、指で撫でようとするゲリナス。その向こうで何か動物が叫ぶような遠鳴りが聞こえる。


「声がする……?」


「ゲリナス、シアン様が遭遇した魔物はおそらく、2点の直線上を『切る』、もしくは『裂く』という(たぐい)の概念の魔物」


「それはシアンから聞いて、大体分かってるっすよ」


 今度は先ほどの倍ほどの大きさ。しかし、人狼は少しも押されることなく、目も止まらぬ速さで首を仕留める。


「小娘!」


「分かってるっす!」


 自分のすぐ横に湧いた1体を、ゲリナスが飛び蹴りで首ごと吹き飛ばす。


「こう見えて、団長仕込みっすよ」


 人狼とゲリナスならば、この程度余裕だろう。とはいえ老狼の言う通り、あまり時間が無い。両手を目前の()()()に構えつつ、今倒された魔物の位置にも視界を集中する。


「あなたには少し難しい話とは思うけれど、砂漠の王国アインが別次元にあることは知ってるわね?」


「童話の話っすよね。他の世界が重なってるってやつ」


「あれ本当なのよ。この状況を例えるなら、大陸地図の紙に同じサイズの紙を重ねたように、何層もの世界が重なっていて、一定の法則が揃えば、別の紙の世界を覗くことが出来る」


「…………ちょっと分かったっす」


 周辺に魔物の顔が覗くことを警戒しながら、ゲリナスは何重にも積み上げた書類を想像しているようだ。


「良い子ね」


「その魔物は()()()()()()っすね!」


 今度は先ほどの3倍ほどの量。おまけに大通りの方でも魔物が出現している魔力がひしひしと伝わってくる。


「そう。魔物たちは世界と世界の隙間に潜んでいる……でもね、魔力視に長けた私たち魔法生物には、丸見えなのよ!」


 次元の裂け目を縫い合わせるイメージでまとめる。花が欲しい。この場で使えるのが、自身の魔力だけなのは少し痛い。


還元さる崩れし理(マキラ・ボニアニカ)


 ふわりと宙に花々が咲き、それぞれが切れ目を塞ぐ。そしてするすると茎を伸ばすと、それをゆっくりと閉じ合わせた。


「やった!」


 次元が縫い合わさせれる間に、ゲリナスと人狼は裏路地の魔物を全て倒していた。


「まだだ、小娘。おい妖精、その古代魔法は消耗が激しい。都市全体が()()()()()()()? このままやれるのか?」


「私、花の種族だから」


「こんな市街地では、すぐ魔力切れだな」


「本来、この程度の傷は数日で自然と直る。魔素が塗られたその1本以外はね。普段は移動する分だけ斬って、都合の良い場所で出入りしてただけでしょうけど、わざわざここ数日で何本切れ目を入れてくれたのかしら?」


 今更ながら、魔力視の程度を下げていたことが恨めしい。すっかり他の種族との生活に慣れきっていた、自分の落ち度だ。エリアーデは妖精である自分を1番信頼して、この調査を依頼しただろうに。


「とにかくやれるだけ塞ぐ」


 大通りへ羽ばたくと、後ろからゲリナスと人狼が何か叫んでいる。


「ボニーヌ、待つっす! 火の気配が」


 こんな些細な魔力探知を怠るとは。やはり魔力の振り方を誤っている。いや、違う。突然現れたのだ。


 通りに抜けて視界が開ける。ハッとしてすぐ横を振り返ると、そこに切れ目がぱっくり口を開けていた。目と鼻の先に魔物の顔。



【お知らせ】

※更新頻度は今後の仕事予定と相談中です。

・次回更新日: 2023/2/28(水)予定

・更新時刻: 20時台予定


※予定の変更がございましたら、Twitterアカウント(@medaka74388178)にてご報告させて頂きます。


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