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誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第6章 ヒト創りし人外都市
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第525話 神聖な気配のする酒場


 サラマーロはいつもの調子です。



 さっとカウンターへ手を付き、両脚をふわりと振り上げながら、サラマーロは軽やかに客席側へ舞い降りた。


 そして予想通り。


「無事で良かった」


 と声を掛けるマシューへと抱きつき、他の者には見向きもしない。小さな黄色い悲鳴に視線を向けると、顔を両手で覆った少女が立っていた。指の隙間から美男子に腕を絡めるサラマーロを覗き見ているのがバレバレだ。


「サラマーロさん、その人が彼氏さんなんですね!……じゃなかった、私、カナハさんを呼んで来ますだ!」


 少女は顔を赤らめたまま、カウンター奥の扉へと消えた。一瞬見切れた顔の、猪のような鼻が可愛らしかった。


 離れる様子のないサラマーロはいつも通りだが、今日のマシューは無理にそれを振り払う様子もない。怪我をしていないかなど、しきりに尋ねている。


 手持ち無沙汰になったチャーリーが、ドスンと空いたテーブルに陣取った。何かに気付いたように室内を見回し、ある一点へ視線を定めた。


「待つしかねーな。にしても、この内装なあ」


 小綺麗な木造りのカウンターに、大陸全土分はあるのではないかという、種類豊富な酒瓶がズラッと整列した戸棚。テーブル席がいくつか並べられ、そこそこの広さを兼ね備えている。


 朝日が眩しいのは南向きの立地ということか……いや。このノルンという都市の太陽は、玩具を空に放ったような不気味なものだ。ご丁寧に日付けまで浮かんでいて、奇妙なこと、この上ない。一体どうやって夜になるのか、自分とエリアーデは興味津々だった。


 それにしてもこの建物、違和感がある。


 チャーリーがしんみりと視線を向ける、奥の壁に飾られた妙に手の込んだ銀装飾。大きな輪が7本描かれ、その輪の上に1つずつ、大小の丸い円が描かれている。そして、これらの輪の中心に、銀の十字星が位置するようになっていた。


――これ、何処かで見たことあるな。あれは……そうだ。


「「ここは、星十字教会?」」


 エリアーデと声が重なる。そうだ、これは星十字教会の祭壇にあつらえられる、聖遺物を表現したオブジェ。つまりこの酒場、元は教会だったわけである。


 ガチャリ。奥の扉が開かれ、先ほどの少女と共に、大柄な人物が中へと乗り込んできた。


「あらやだ。説明する前に気付いちゃった?」


 そう言いながら入ってきた人物にも既視感があった。上半身はチャーリーに負けず劣らず、がっしりとして筋骨隆々。それを隠すシャツはパツパツで、今にもボタンが弾け飛びそうである。身体中、銀色の美しい(うろこ)で覆われていたが、顔も外見も、何から何まで海底庭園で世話してくれた人魚と瓜二つ。


「クナハさん!?」


 思わず大きな声を出してしまったが、チャーリーも表情を変えている。下半身が2本脚であることと、全身に鱗があること以外、まるで違いが見当たらない。


「あら、クナハのお知り合い? やだわ、あの子ったら。シャンハー様なら、ある程度予想付いてたでしょうに。事前に連絡ぐらいしなさいっての」


 サラマーロとは違い、きちんとカウンターの出入り口から出てきた彼は、質問攻めにされていたサラマーロを見て、にっこりと笑った。


「その人がマシューなのね! 良かったじゃない、サラマーロちゃん。噂通りの美青年じゃないの〜」


 大男の舐め回すような視線に、マシューが一歩後ずさったが、サラマーロはご満悦である。そろそろ助け舟を出そう。


「えーと、あなたがカナハさん? 俺はアリオです。アリオ・アンジェリコ。クナハさんの家族なのかな?」


「は〜い、そうよ! 私は海底庭園出身の魔導士カナハ。クナハの双子の弟です、よろしくね」


「シャンハーさんの弟子は、海底庭園から出られないって聞いたけど」


「良くご存知なのね。私はシャンハー様に弟子入りせずに、海底庭園を出て来ちゃったのよ。シャンハー様ってば、あの通り美しいでしょう? 叶わないのにいつまでも片想いって辛くて……」


「そ、そうですか……」


 相槌に困っていると、彼の後ろから、これまた見知った顔がひょっこりと2人覗いた。


「ユリアン、マックス!」


 おずおずと出て来た2人に、シアンが駆け寄る。置いて来てしまったことに責任を感じていたのか、怪我の有無などを必死に確かめている。


「シアン様、(わたくし)どもは無傷で、大事ございません。それよりも、今は情報共有を急がれた方がよろしいかと」


「そ、そうだな。ありがとう」


「カナハ様、皆様(みなさま)にお茶をお淹れしたいので、カウンターのキッチンをお借りしてもよろしいですか?」


「それなら、私が淹れるから、ユリアンさんたちも席に着いてて頂戴」


 久々に会ったマックスは、またひと回り大きくなっていた。豚鼻の少女がもじもじしながら、彼にくっついて歩く。彼女もマックスに負けず劣らず大柄だ。ひょっとしたら自分より少し背も高いかもしれない。


「みんな、この子はペギー。良かったら、一緒に話を聞いてくれないかな」


 彼が彼女を隣に座らせると、サラマーロがその対面にマシューを無理矢理着席させる。


「そうよ。ペギーの話を聞かないと始まらないわ。私、()()()()()()、魔法使いにここへ突っ込まされたのよ」


 ユリアンとエリアーデ、ドルンデと自分は、周辺のテーブルから、適当な椅子を掴んで輪に入る。


「あのさあ。俺、全然状況掴めてないんだけど、どういうことなの?」


「わ、私は……」


 訛り混じりの言葉で、ペギーという少女が言い淀む。俯いたまま、物凄く話しづらそうだ。


 トポポポとお湯がポットに注がれる音。湯気と共に沈黙が流れると、サラマーロがギロリと彼女を睨み付けた。少女は紅潮した顔をパッと上げると、どもり気味の声を上ずらせながら叫んだ。


「あ、ああああの、実はサラマーロさんが発端で、奴隷たちは革命を起こすことにしたんだぁ!!!」


 金髪の美丈夫の肩から、ずるりと力が抜ける。その場の全員が叫びを上げるまで時間は掛からなかった。



【お知らせ】

※更新頻度は今後の仕事予定と相談中です。

・次回更新日: 2023/10/11(水)予定

・更新時刻: 20時台予定


※予定の変更がございましたら、Twitterアカウント(@medaka74388178)にてご報告させて頂きます。


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