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誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第2章 果ての砂漠の金色幻想都市
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第48話 謎の湿疹


 砂漠編はあまり心配せずにお読みください。


※2021/10/28より改行修正入れております。内容には変更ございません。



「おかしい。これは流石におかしいです」


 エリアーデはアリオが漁に出ている間、サラマーラの家に往診に訪れていた。2人がアインに到着して1ヶ月が経過していた。


 サラマーラは彼女の部屋のベッドに腰掛け、ケープを脱ぎ、パンツを膝上まで捲り上げていた。彼女の両腕と両脚を見ると、二の腕、脇の下、膝と肘の裏などに湿疹が出ている。


「いや〜。参っちゃうな〜。意外と痒くてさ。あと、いま丁寧語になってたよ」


 椅子に腰掛けながら彼女の患部を診ていたエリアーデは、面倒そうな表情になった後、軽く咳払いをした。


「つまり…これと同じ湿疹が、街で流行しているの…?」


「そうなんだよね、近所でも流行しちゃって困ってて」


 エリアーデは不安そうな表情で顎に手を当てて考え込んだ。不意に視線を感じてサラマーラの方に目をやると、嬉しそうに自分を見つめる彼女と目が合った。


「な…なぜ嬉しそう…なの?」


 サラマーラは慌てて視線を外らせる。


「え? 嬉しそうだった? 結構困ってるんだけどな〜」


 エリアーデは(いぶか)しげに目を細め、サラマーラを咎めるように見つめたが、やがてゆっくりとため息をついた。茶色い小瓶を空間魔術で取り出すとサラマーラに渡す。


「薬です。私は取り急ぎゴージャ王に用があ…るから、これで戻…るね」


 そう言うと踵を返して表へと向かう。サラマーラは「ありがとう〜」と彼女の背中へヒラヒラと手を振った。


 居間に出ると、彼女の祖母と母親が隣接する台所で洗い物をしている。サラマーラの母親は、彼女とは違い黒髪の美人だが、顔立ちは彼女にそっくりだった。


 ケープを脱いでいる母親の腕にも湿疹が見られる。祖母の方はローブを被っているので分かりづらいが、やはり湿疹が出ているらしい。サラマーラの母は、帰ろうとするエリアーデを見つけて慌てて声を掛ける。


「あら、もう帰るの?」


「取り急ぎ城に戻らなければならなくなりましたので。塗り薬をサラに預けましたので、お使いください」


「まあ、悪いわね。ありがとう」


「いえ、こちらこそ朝ご飯美味しかったです。ご馳走様でした」


 そう言うと、エリアーデは隣の倉庫へ続く扉を開けた。


 宝石や装飾の金属が積まれた倉庫兼工房では、サラマーラの父親が宝飾品を作る作業をしていた。目に作業レンズを装着し、手元の魔道具で宝飾品に模様を彫っていく。


 彼の邪魔にならないよう、ゆっくり扉を閉めると、エリアーデは忍び足で後ろを通り過ぎようとした。しかし、気配を感じたのか彼は手を止めると作業レンズを外し、彼女へ振り返った。


「おや、エリー。もう帰るのかい?」


 そう言いながら、彼は首に巻いた布で顔に滴る汗を拭った。


 彼は桃色の短い髪に、濃いピンク色の目をしている。サラマーラと異なるのは、かなりの癖毛であちこち明後日の方向へ跳ねていることだった。


 エリアーデは申し訳なさそうな表情で先ほどと同じ詫びを入れると、戸が開いたままの店への出入り口へ抜けた。表通りに面した店では、城で余興をしてくれたサイードが商品を陳列していた。


 サラマーラの実家である宝飾品店『虹宝宮(こうほうぐう)』は、まるで万華鏡の中に居るような空間だ。外の世界では見ることのない、美しい贅沢品に目が眩む。


「エリー、帰るの? また来てね」


 そう言いながら、サイードは店の表側で比較的安価なブローチを並べる。砂漠に棲む魚の鱗や、貝殻を使用しており、友達への祝い品や、恋人同士のプレゼントなどに人気があるらしい。


 彼の家は果物農家で、今は休耕期間なのでアルバイトをしているとのことだった。頭のターバンで分かりづらいが、サイードは黒髪黒目をしており、この国では珍しくない、濃い褐色の肌をした爽やかな青年だった。


 彼に挨拶して店を出ると、サラマーラの幼馴染だという余興で琴を弾いていたソフィアが、正面の道具屋から声を掛ける。


「エリー! もう帰っちゃうの? 今度はうちにも寄ってってよー!」


 彼女は栗毛を肩より少し上で切り揃え、紫色の瞳をした小柄な可愛らしい女性だ。


 姉夫婦の店の手伝いに来ている彼女は、3世代ほど前にやって来た外からの移民らしく、フリルの付いた丈の短いワンピースを着ていた。足元はニーソックスに革靴という、少し動きづらそうな格好だ。


 彼女のような肌の色の薄い移民は、この国では皮膚病にかかりやすいらしく、隣の通りの医院で支給される日焼け止めが必要とのことだった。


 アリオとエリアーデも入国してすぐ、ユリアンから日焼け止めの薬を渡されて使っている。それでも2人とも少し日焼けしていたが、ソフィアは本当に肌が真っ白なので、あまり日の光に強くないことが伺えた。


 エリアーデは彼女に手を振ると、店先の椅子に腰掛け、無言でウインクをして来るカンツォーネを無視し、足早に王宮へ向かった。


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