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誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第2章 果ての砂漠の金色幻想都市
43/601

第43話 砂漠の夜明け


 朝からうどんでしたが、うどん県在住とかではないです。


※2021/10/28より改行修正入れております。内容には変更ございません。



「そろそろ夜明けだな…」


 シアンはベッドから起き上がると寝巻きのワンピースを脱ぎ捨て、動きやすい服に着替える。カーテンを開けると外は真昼の明るさで、相変わらず何処かで鳥が(さえず)っていた。


 ベッドの横の小机には小さな時計が置かれ、4時半を指し示していた。その横には本棚があり、小説や絵本が並んでいる。


 彼女は変わり映えしない窓の景色を離れ、部屋のドアへ向かった。ドアの脇に洋服箪笥があり、その横には目を覚ました時に着ていたドレスが掛けられている。


 ドアノブに手を掛けたまま、シアンはしばらくドレスを見つめた。


「やっぱり何処かで見た覚えがあるんだよな、これ」


 そう呟いたが、結局何処で見たのか思い出せず、そのままドアを開けて居間へ出た。


 不思議なことに、居間の食卓にはすでに朝食が用意されている。しかし、もう慣れたという風にシアンは食卓につき、独りで静かにパンを食べ始めた。


 ひと通りの支度を済ませると、シアンは家の外に出て泉へ近付いた。


「もうすぐ漁に出る頃だな」


「お前、相変わらず朝が早いな」


 自分の呟きに、背中から相槌を打つ声が聞こえてきた。シアンが、やはりもう慣れたという風に振り返ると、ソーヤが欠伸をして樹にもたれ掛かっていた。


「お前にしては朝早いんじゃないか? 私と違って寝起きもそんなに良くないだろ」


 彼は自嘲気味に笑う。


「死んでから、あまり関係無くなったな」


 シアンは何か言おうとして躊躇(ためら)うと、代わりにこう言った。


「それなら、朝もここへ食べに来れば良いだろ」


 ソーヤは寂しそうに笑い、話題を変える。


「それより一昨日、この辺りをうろうろしてただろ?」


「ああ。どうやって進んでも、ここまで戻って来てしまうってことが分かっただけだったけどな。やはり私のしていることは見えているんだな?」


 彼女からの問い掛けに、彼は何も答えずに微笑んだ。そして、こう続けた。


「気にならないか?」


「え? ここのことは色々と気になるけど…」


 シアンはしどろもどろになった。ソーヤは笑いながら泉を指差して言葉を足した。


「シャーリーンだよ」


 泉にはシャーリーンとアリオが映し出されていた。




・~・~・~・~・~・~・~




 城の食堂に朝日が差し込むと、眩しさでエリアーデは目を覚ました。いつの間にか、食卓の周りに配置されたソファで寝込んでいたようだ。頭の中で今日の予定を反芻(はんすう)すると、エリアーデは血相を変えて起き上がった。


「アリオ! 日の出です!」


 被っていた毛布がずり落ちる。周りを見渡すと、寝ているのはサラマーラたち余興の一団だけで彼の姿はなかった。よくよく思い返せば、朝が早いからとダミアンがアリオを連れて途中で抜け出したのだった。


「さすが賢者様、朝がお早いですね。一曲唄いましょうか?」


 エリアーデは隣のソファで喋る帽子へ目を向けた。


「いいえ、結構です。それよりも昨日の演目について、よろしければお伺いしたいことがあります」


 帽子で顔を覆ったまま、カンツォーネは返事をする。


「それは全然構いませんが、アリオを追い掛けなくてもよろしいのですか?」


 彼女は逡巡した後、カンツォーネへ返答した。


「そうですね。私も聖剣の修行には興味があります。それでは、今日の昼食時にでもお伺いしてよろしいでしょうか?」


 彼は帽子を片手で持ち上げると、エリアーデへ微笑んだ。朝日を浴びてキラキラ光る髪と瞳には、まるで吸い込まれそうな不思議な魅力があった。


「ええ、喜んで。私はサラマーラの宝飾品店に下宿しております。場所はゴージャ王がご存知でしょう。彼女に頼んでおきますので、アリオと一緒に昼食を食べて行くと良いですよ」


 エリアーデは「ありがとうございます」と言うと、毛布を丁寧に畳み、階下へ降りる階段へと向かった。彼女の背中へカンツォーネは思い出したように声を掛ける。


「それと、ひとつだけ」


 思わせぶりな言葉に、エリアーデは彼へ振り返った。


「なんでしょう?」


「あなたは、かの大賢者同様、あまり自分のことに興味がないように見えます」


 彼女は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。カンツォーネはおかしそうに笑うと、彼女へこう言った。


「余計なお世話かもしれませんが、聖剣だけで無くアリオにも、もう少し興味を持つことです」


 その言葉を飲み込めない様子のエリアーデを見て、彼は言いたいことを補足した。


「私は仕事のネタに他人の人生を知ることが欠かせまん。ゴージャ王から収集した話では、かの大賢者が500年前に魔王討伐の作戦を立てたこと、その要が聖剣とソウル・スフィアにあったことは間違いないでしょう。でもね…敗因はもっと単純なことだったのではないかと、私はそう思えてならないんですよ、賢者様」


 カンツォーネはそれだけ言うと「では、お気を付けて」と彼女に告げ、帽子を顔に戻して寝息を立て始めた。


 エリアーデは未知の生物を見つけたように、しばらくカンツォーネの帽子を見つめていたが、やがて外の景色に目をやり、遠くの門前に海獣の背ビレを確かめた。


 そして、急ぎ足で階段を降り始めた。


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