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誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第1章 旅立ち
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第4話 魔力持ちの人間


 校閲もやってくれてる通称【1号読者】が、アリオくんのことをマリモと同じイントネーションで読むので困ってます。


 世界一有名なRPGゲームの主人公である配管工のオッサンと同じイントネーションです。


 くれぐれもお願いします。


※2021/10/28より改行修正入れております。内容には変更ございません。



「珍しく遅かったな。割と早く終わったように思ったんだが」


 掃き溜めのような川辺で、居眠りを決め込んでいたテオは、橋の下に戻って来たアリオを見るなり、そう声を掛けた。彼は特に表情を変えず、両腕一杯に抱えた紙袋から、包みを取り出してテオに渡す。


「それララから。今日は特別に弁当だってさ。俺の分もあるから、全部食うなよ」


 包みを開くと、テオの黒い瞳がにわかに輝く。いかにも美味しそうな、ベーコンとレタスの挟まった大きなサンドイッチが6つ覗いていた。


「ララって、お前が気に入ってるあの子か。邪気を感じないって、来た時からやけに懐いてたな」


「そんなんじゃない」


 そう言いながら、アリオは横に座り込む。相変わらず無表情のままだ。幼い頃はそうでもなかったが、この街に来てからというもの、彼の感情がまるで見えなくなってしまった。


「ララが魔力持ちだって、カーサス以外にバレた」


 どんな思いで言ったのか分からないが、彼の言葉に、テオの表情は急に険しくなる。実力のある魔導士でもなければ、魔力持ちだと知れることは、今や命取りだ。


 話を聞く限り、ララは魔術ひとつ使えない、ただの娘に違いなかった。どう話したものか考えながら、サンドイッチを包みから1つ取り出し、アリオに語り掛ける。


「ララが来た時に教えた通り、魔力持ちの人間は魔王の力への抵抗力が強い。一般的に、かつて多くの人間が持ち合わせていた良心が強いんだ」


「良心…お前がよく俺に説教するあれか。良心だとか、理性とか…人は考える生き物だとか、よく分かんないだよな」


 そう聞いて、思わず吹き出してしまった。教えたことを意外とよく覚えている。嬉しくなって、サンドイッチを思い切り頬張った。


 アリオはずるいとばかりに、手元からサンドイッチを1つもぎ取る。口は悪いが、何年も一緒にいると可愛いものだ。


「本当はお前にもっと多くを教えたい。森で行っていた手稽古だけで無く、その汚い言葉遣いを直したりな。だが、今のこの世界では綺麗な言葉は目立ち過ぎる」


 アリオは「はあ?」と眉をひそめ悪態をついた。やはり口は悪いが、脱線してしまうので、ララの話に戻すことにする。


「魔力は髪や瞳の色を変える。この大陸では、魔力のない人間のほとんどが黒髪だ。つまり、魔力持ちの人間は黒髪でないことが多い。魔力が多いほど色素が薄いとも言われている」


 時々、アリオの様子を伺いながら話し掛けてみる。しかし、彼は無表情のままだった。子供とは、もっと表情豊かな生き物ではないだろうか。


「…そしてなんの効力もないのに、魔除けと称して魔力持ちの人間を人身売買する奴らがいる。あの娘も大方、森でひっそり暮していたのを追い立てられたんだ」


 アリオは無言のままサンドイッチを食べ続ける。しかし、小さな耳がピクリと動くのを、テオは見逃さなかった。やはりララには関心があるようだ。


「…1年間無事だったのが不思議なくらいだな。カーサスは強い」


 サンドイッチを頬張りながら、アリオはカーサスの考えを彼へ伝えることにした。


「カーサスは近々、修道院がチャームの市を出すって言ってた」


「ふん、かなり久しぶりだな。2年前に見たか」


「そこで、ララを預けるって言ってた」


 それを聞いて、テオの表情に険しさが増す。修道院の市など一体いつになるのか怪しいが、その程度のことが分からないカーサスではない。よほど情報に自信があるのだろう。しかし、そんなものを当てにするほど危険なことはなかった。


「無理だな。カーサスにしては珍しく悪手だ。昨日今日と暴れた暴漢どもや、チャーリーの手下全員がチャームを持ってるとは思えない。今日にでもバレる」


 そう言った瞬間、辺りの様子がおかしいことに気付いた。声が聞こえる。テオは急に黙り込むと、微動だにしなかった。そしてアリオはアリオで、サンドイッチを食べる手が止まっていた。


「なあテオ。俺、ララをここに連れて来ても…」


「待て」


 アリオの言葉が耳に入らない様子で、テオは橋の上を見上げる。何かに耳を澄ませていた。少しイラっとしたように、アリオは眉間に皺を寄せて睨み付けてくる。可愛らしい顔が台無しだ。


「なあ、いいだろ、テオ」


「そうじゃない、いつもと違う。様子が変だ」


 そう言われて、彼が橋の上の様子を伺っていることに、アリオは今更気が付いた。


 そして、その理由にも。周りから、楽しそうに笑う人々の声がするのだ。


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