表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第4章 約束の女神
281/601

第281話 腕試し


 前話からの続き。めっちゃ降って来ます。



――こんなの生き物に当たったら……!


 アリオがそう思った途端、ぎゃっ! と断末魔の叫びが飛び込んで来た。石の雨降り注ぐ背中を、ちらりと振り返る。中型の鳥が数羽、背後の岩に叩きつけられている。先ほどバテルマキア上空を通過していた群れの逃げ遅れだ。


 飛び出した目玉と視線が合い、思わず顔を背けた。地面からの飛び石はマシューの防御結界がいなしていく。それでも身体中から危険を知らせる音が鳴り響いてやまない。


 落雷を避けるため横穴に退避すると言っていたミルナたち。レオカントが彼らをすでに移動させたことを祈るしかない。


 それよりも危険信号の音がどんどん大きくなってゆく。頭までひりひりと迫り上がってくる緊張感。耳の中に心臓を突っ込まれた。そう思うほど、自分の鼓動が大きく聞こえる。胸が早鐘を打つ理由はもう分かっていた。


「見つかった。全員、俺が来ると言ったら後ろから出ろ」


 チャーリーの言葉にドルンデが鼻を鳴らした。2人とも笑っている。マシューですら冷や汗を流しているのに、この2人はやはり肝の()わり方が違う。


 降り注ぐ石は次第に減り、コツコツと小石の当たる軽い音、最後には風で舞った砂がパラパラと積もる音がし始めた。


 こちらへググゥっと押し寄せる圧。

 アリオも肌で悟った。先ほど見た人型の何かだ。

 チャーリーは覆われた眼前を、猛獣の威嚇の如く睨み付ける。


「来るぞ!」


 岩石の砕け散る音。

 目の前にあった巨大な一枚岩が一瞬で飛び散る。


 アリオは左後ろ方向に飛び避け、その様子を見ていた。驚いたことにチャーリーは動かなかったのだ。


 先ほどまで自分たちを守っていた岩。砕けるその向こう側に魔物がいた。あの一瞬で。ここまで迫っていたのである。しかし前に突き出されている相手の左拳は、明らかに本気ではない。


 魔物の一撃を避けると同時に、チャーリーは背中側へ。隙だらけのように見える魔物の背に、そのまま右拳をお見舞いする。


 途端に耳をつんざく電撃音。


 チャーリーお得意の雷電魔法を(まと)った一発。命中したかに見えたが、もちろん違った。なんと平手一枚で、一撃を受け止めていたのである。


 岩を砕いたその魔物は意思ある大岩(アックス・フォート)に似ていた。しかし、形態はより人間に近く表情が読み取れる。チャーリーよりひと回り身体が大きい程度。普段のゴージャ王ぐらいだろうか。


 半透明に澄んだその身体は、全体的に(あお)くきらきらと煌めいている。『輝きのランケールド』という二つ名は、身体を構成する鉱石の美しさ故だろう。そして事前に聞いていた通り。その透けた身体の中心部には、胸に虹色の炎が浮かんでいた。


「聞いてはいたが、イカすねえ! 弱点丸出しでも隠さねえ。そういうの嫌いじゃねーな」


 チャーリーがニカっと笑うと、ランケールドも同じように口の端を吊り上げた。


「そっちこそやるじゃねえか! 聖剣の使い手ってわけじゃなさそうだがよ」


 魔物は平手とは反対の拳を突き出し、チャーリーは背面側へ飛んで距離を取った。ここまではお互い想定済み。ランケールドはくるりとアリオに向き直ると、右手で手招きする。


「さて…さすがにその背中の剣は忘れねえぞ。掛かって来い、聖剣の小僧。面白いか面白くないか測ってやる。なーに、小手調べだよ。ただのガキを殺してもつまんねえだろ?」


 その言葉につい歯噛みしてしまう。口をきゅっと結んだアリオを、マシューが手で制止する。


「まだだ。挑発に乗るな」


「外野は手ぇ出すなよ。それこそ、つまんねえことしたら殺すぞ」


 アリオを止める赤毛の美男子を、ランケールドは視線で鋭く刺す。手出し無用、二度言わせるなと。その目はそう語っていた。


 深く深く呼吸を整えると、アリオはマシューの手を退けた。


「大丈夫。ありがとう」


 刃が鞘をなぞる涼やかな音。

 銀狼の(たてがみ)の如き銀髪。

 目の前の魔物を真っ直ぐ見据える(あお)い瞳。


 ランケールドの中で、何もかもが懐かしく甦って来た。あの目がやがて金色に輝き始めることを覚えている。


 つくづく聖遺物とは不思議なものだ。魔王に恐怖を運ぶ『(おそれ)集め』は、純粋な魔物でなければ受け継ぐことが出来ない。一方の聖剣アルル・ゴージャは、光の精霊と人間の混血でなければ継承は不可能。


 少年の目が太陽のように光を発する。

 そう思った瞬間、目前にアリオが迫っていた。


――疾い! だがこれは風の速度……!


 横方向の一閃を後ろへと(かわ)す。すぐに悟った。肝心の魂が聖剣に宿っていない。


「おいおいおい…シャーリーンは何処へ行った?」


「今はいない」


「話になんねえな」


 これはわざと言ってみた。予想通りこちらに飛び込んで来る。聖剣の斬りつけを、堅固な両腕で返してゆく。辺り一面に刃物を鍛えるような音が響いた。何度も何度も。


 未熟だ。剣技の筋は良いが、性能の良い道具を扱いきれていない。魔王が歯牙にも掛けない理由が分かる気がした。これは面白くない。


 バテルマキアを囲む水路。そこに敷き詰められた底岩の上。アリオが飛び掛かるたび、魔物は後方の岩に飛び移る。その繰り返しだ。


――良く追って来る…反応の良さも自前。まだ古代詠唱が使えねえから、シャーリーン抜きで練習中ってところか。


「ダメだな。全然面白くねえ」


 両腕を胸の前で交差させ聖剣をカンと受け止めると、さして力も入れずに腕を払った。勢いで少年が吹き飛び、先ほど狙った大岩まで一瞬で届く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ