表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が為の勇者  作者: 空良明苓呼(旧めだか)
第3.5章 故郷の待ち人
175/601

第175話 村の守人


 セルンボビア村、ちょっと怖いと【1号読者】に突っ込まれました。そうでしょ〜。あ、ホラー小説ではないです。



「付き合ってくれて、ありがとう。もう行こう」


 マックスの声に意識を戻すと、彼は先ほどの紐飾りから、あの首がほつれたぬいぐるみを切り取っていた。それを丁寧に布に包んで、鞄の中へ入れている。


 その時だった。

 エリアーデが何か叫んでいる声が聞こえたのは。


 悲鳴ではなかったが、こっちを呼んだような気がする。マックスと顔を見合わせると、子供部屋から飛び出した。


 すると、廊下の向こう側にある入口に、誰かの影が見える。


「誰?勝手に人の家に入っているのは!」


 その声は小さな少女が発したものだった。見た目は10歳といったところだろうか。しかし、目の前の彼女は、見るからに人間ではない。


 青い肌に金髪のボブヘアー。その髪を覆うような大きな花は、黄色に紫の斑点があり、毒々しいことこの上ない。白眼のない赤い瞳は、ルビーを顔に埋めているようにしか見えなかった。


 少女は腰に手を当て、あまり似合わないピンク色のワンピースを、ふりふりしながら近寄って来る。その滑稽な様子を見て、マックスはすっかり警戒心を失ってしまった。眉間の皺からして、どうやら少女は怒っているつもりらしいが、眉毛がないのであまり怖くない。


「ごめんね。君の家だったのかな…」


 そう言って魔物に近づこうとするマックスを、アリオは手を前に出して制止した。こちらも軽く睨み返す。魔力が全くない彼には、精霊を見ることは出来ない。見えているということは、すなわち異種族か魔物に違いなかった。意識を集中させ、相手の核の位置を見定める。


――核がある。やっぱり魔物だ。

 でも、なんだこの魔物…?核が……銀のチャームだ!


 透けて見える少女の頭部に、小さな魔除けの銀のチャームが浮かんで見える。それも、花の形を(かたど)った、少しだけ上等な物だ。しかも、彼女の魂であるそれには、澱みが全くなかった。つまり、恐怖を集める類の魔物ではない上、彼女自身にも全く悪意がないということである。


 アリオがホッとしたのも束の間、マックスは自分を制止する彼の手を押し退けた。若干の軽蔑を込めて、思わずアリオを睨み付けると、少女を怖がらせまいと声をひそめる。


「おい、アリオ。子供相手に聖剣抜く気だっただろ」


 聖剣という言葉を聞いて、少女はビクッと身体を震わせた。その愕然とした表情は、見るも明らかな恐怖で染まっている。


 見た目で判断するなと、彼に言い返したかったが、まずこの少女が誰なのか、確認するのが先決だろう。アリオは小さくため息をつくと、両手を広げて彼女に尋ねる。


「何もしない。君がこの家に住んでるの?」


 少女はこちらを恐々と睨み付けたまま、しばらく質問に答えなかった。しかし、入口にエリアーデたちが駆けつけ、板挟みになると、観念した様子でこう言う。


「違うよ。私はここの村長の指示で、村を管理してるだけ」


「村長?村長が生きてるの?」


 マックスは、つい素っ頓狂な声を上げてしまった。村長なんて会ったことはないが、村はまだ機能しているのだろうか。彼の目は思わず輝いたが、その淡い期待はすぐに裏切られることになる。


(じいじ)1人が生き残ったから、村長ってだけ。もうここには住んでないし」


 それを聞いて、彼が露骨に肩を落とすのを、アリオは見ていられなかった。


 戸口の外に立っていた3人は、警戒しながら中のやり取りを伺うが、やがてサラマーロとマシューが、村の入口からの呼び声に気が付く。


「ヴァルー!ヴァルアナ!どこじゃー?」


 その声に反応するように、彼女はくるっと向きを変え、村の入口に向かって叫んだ。


「ここだよ、(じいじ)!コラトリアさんの家ー!

 珍しくお客様みたい!チャーム持ちだから、行商の人かもー!」


 どうやらこの魔物の少女の名前は、ヴァルアナというらしい。彼女はアリオたち5人に目配せすると、口元に指を1本立てる。赤い吊り目を細めながら、こちらを牽制している。


「私、(じいじ)の孫なの。話の調子合わせて。魔物だってバラしたら殺す。あと、(じいじ)に何かするなら殺すから」


 嘘だ。アリオはそう思った。先ほど見た核が綺麗だった通り、彼女は恐らく、今までに1人も殺していない。

 また、こう言っては悪いが、特段強いようにも見えなかった。植物の魔物だろうから、焔を操るマシューが相手取れば、ひとたまりもないだろう。


 何より、庇ってくれたマックスを見る彼女の瞳に、安心の光が灯るのを、アリオは見逃していなかったのだ。どうもこの魔物、(わけ)ありのようである。


 そんなことを考えているうちに、杖を突いた老人が、家の正面階段の下まで、おぼつかない足取りで辿り着いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ