第168話 3年ぶりの再会
いよいよシアンがお導きですね。
ドルンデが向かうドワーフの隠れ里は、北西側にあるらしく、一行はここで別れることにした。1人で里へ向かう彼女のことが気掛かりだが、ドワーフは隠密行動と擬態に長けているので、その方が安全らしい。
「アリオ、上手くやりな」
相変わらずドルンデに凄まれると、心臓が縮み上がる思いだが、今はそれが心強かった。彼女なら大丈夫だ。きっとまた会えるような気がする。アリオはそう思いながら、森の中へ消える彼女の背中を見送った。
「ドルンデさんの先祖が、500年前にはアインに居なかったっていうの、残念だったなあ」
彼女の姿が見えなくなると、エリアーデはポツリと呟いた。そうなのだ。ドワーフは平均寿命が6年と短命な分、産まれる時に、両親の記憶をそのまま引き継ぐという、特殊体質『記憶相伝』を持っている。
そのため、500年前の勇者一行の記憶がないか、アインのドワーフたちに尋ねたのだが、全員500年前は砂漠に住んでおらず、魔王が世界を乱した後の移住者だった。
誰か勇者一行に会った記憶がないか、ドワーフの隠れ里で聞いてみると、ドルンデは約束してくれたが、果たして見つかるだろうか。
しばらく森を北東に進むと、にわかに聖剣が輝き始めたことに、サラマーロが気が付いた。それを聞いて、アリオは焦る。きっとシアンが出て来るに違いない。
「これ、聖剣引き抜かないとダメかな?」
「ええ〜、眩しいから、やめてよ」
「その必要はないぞ」
サラマーロが苦言を呈すと、凛とした声が辺りに響いた。聖剣だけでなく鞘が光り輝き、全員が眩しさに手や腕で顔を覆う。光が収まると、目の前に銀髪碧眼の少女が立っていた。
500年前の勇者、シアン・カヴァリエその人だ。銀の長髪はしなやかに揺れ、アリオと同じ色の瞳は優しげだが、強い意志を秘めている。
「なによ、結局眩しいんじゃない」
一同が驚いたことに、サラマーロの第一声がそれだった。いくら盗賊の末裔とはいえ、本当に肝が据わっている。とても聖人と称えられる、過去の偉人を目の前にした態度ではない。
しかし、シアンが驚いたのはそこではなかった。なんせ彼女は、かつての自分たちの仲間、フランチェスカ王妃と瓜二つなのだから。
「分かってはいたけど、本当にフランチェスカにそっくりだな!」
シアンの予想外の言葉遣いを聞いて、サラマーロとマシューは、思わず眉をひそめた。シャーリーンとアリオから事前に聞いていたものの、とても貴族令嬢とは思えない口調だ。
しかし、シャーリーンが本人と言う以上、間違いないのだろう。そういえば、あの聖剣の魂である光の魔物を、昨日から見ていなかった。姿を見せないつもりだろうか。
エリアーデは心配そうに、聖剣をソウル・スフィアで叩いてみたが、反応はなかった。
・~・~・~・~・~・~・~
「うーん。大丈夫ですかね〜」
宙に浮かんだままの小さな少年がそう呟く。薄紫色の髪の不思議な少年は、白装束を纏っていた。3年前、シアンに神々からの遣いを名乗った、不思議な子供である。その神秘的な金の瞳が、泉を覗き込む。
その後ろでは、ソーヤが腕組みをして、スッカルの樹に背を預けていた。彼は特に彼女を心配している様子はない。無表情のまま目を細めると、目の前に浮かぶ少年に感慨も無く言い捨てる。
「どうせシアンには会わないだろう?その茶番を続ける意味があるのか?」
そう言われると、少年は急に凍り付いたような表情になり、浮き上がったままソーヤを振り返った。金属のような瞳が、不愉快そうに揺れる。その姿は酷く滑稽で、笑う気も起きない。
しかし、矛先がシアンに向かっても困るのは確かだ。今のは失言だったと詫びることにする。
「…いや、悪かった。3年前は助けられたな。
でも、あれ以来、シアンとは直接接触してないだろ。そんなに警戒する必要があるのかと思っただけだ」
その言葉を聞いて、溜飲が下がったのか、少年の瞳から不快感が消えた。しかし、この得体の知れない少年は、相変わらず無表情のままである。
しばらく沈黙した後、少年はまた、おもむろに口を開いた。
「シアン様は勘が鋭いと、以前仰っていましたので。細心の注意を払わなければ、逃げられてしまうかもしれません。そうなると、1番困るのは……」
「分かっている。アリオたちが海底庭園を訪ねるまでは、少なくとも記憶は戻らないだろ」
「………その後は、どう致しますか?」
ソーヤは忌々しそうに、少年を睨め付けた。今にも殺してしまいそうな顔だ。その感情のこもった表情を見ると、少年は満足げに薄く微笑む。
知っている。この少年が何を思っているのか。だから、なおさら面倒なのだ。
「分かりきったことを聞くな」
そう吐き捨てる。
2人の間には、長い沈黙が訪れた。




