宣戦布告
ルドガー タガート王が退席すると、会場は、少しづつ元の賑やかさを取り戻して行った。
だが、そこには京太達やナイトハルトの姿は無かった。
会場を後にした京太達は、貸し切りにしている宿に戻っていた。
「京太、本当に参加するの?」
「うん、するよ」
「ところでナイトハルト様、イライザの事をルドガー タガート王は、知っていたのですね」
「ああ、近隣の国でもあるが、その前にアトラ王国にも来た事があるからな。
それに、あの時もイライザにしつこく言い寄っていた男がいた気が・・・・・」
ナイトハルトが思い出しながら話した。
「兄様、その男がハーグの第2王子ですよ、
私は興味が無かったので、無視していましたけど」
さらっと言い放つイライザは、先程の件でイラついていた。
「ですが、あの様な暴挙に出るとは、本当にこの国は最悪です!」
イラつくイライザを他の仲間達は宥めながら、話を戻す。
「でも、あのおじさん、何かやりそうな感じだったわよね」
――王様をおじさん呼ばわり・・・・・・
「でも、京太だよ、多少の事なら気にもしないでしょ」
ラムの言葉を、ソニアは、あっさりと受け流した。
「まぁ、確かにそうだけど・・・・・」
ラムは、心配そうに京太を見る。
その様子に気付いた京太は、ラムの頭を撫でた。
「心配させないように、頑張るよ」
「う、うん・・・・・」
ラムは頬を赤くし、俯く。
エクスは、その様子を見逃さなかった。
「ラムがデレてます」
「あら、ホント、あ奴はツンだけではないのだな」
エクスとラゴの突っ込みに、ラムは2人を睨む。
「エクスよ、元に戻ってしまったではないか」
「大丈夫です。
頭を撫でれば、直ぐにデレます」
「ちょっと、いい加減にしてよね!」
その様子を見て、仲間達は笑っていた。
翌日、ナイトハルトとフィオナと一緒に、京太は会場に向かった。
今日から予選が始まる為、2人の護衛は仲間達に任せ、京太は選手控室に向かった。
選手控室に入ると、大勢の出場者で溢れかえっていた。
だが、全員が優勝を目指しているのか、誰一人、会話をしている者はいなかった。
――凄い雰囲気だな・・・・・
京太は、開いている椅子に座り、時間を待つ事にした。
開会式が終り、予選が進む中、京太の順番が訪れた。
予選は4人が戦い、残った1人が本選に出場になる。
試合が始まると、3人はいきなり京太に襲い掛かって来た。
――まさか、初めから・・・・・
驚きながらも、3人を簡単に倒して、本選出場を決めた。
その様子を見ていたルドガー タガート王は、拳を握りしめる。
「あの平民、調子に乗りおって・・・・・」
ルドガー タガート王は手を上げる。
「お呼びでしょうか?」
そこに現れた男に命令をする。
「対戦相手の変更だ、あの奴隷にやらせろ」
「はっ」
男は命令を受けると、その場から姿を消した。
予選が全て終り、本選出場者が決まった。
「1回戦の相手は、【ルードヴィッヒ】って人だな」
京太は、対戦相手を確認した後、控室に戻った。
その頃、ルードヴィッヒは、ある男から指示を受けていた。
「遠慮はするな、痛めつけてから、殺せ」
「本当にアイツを殺したら、解放してくれるんだな」
「ああ、約束する」
「へへへ、わかったぜ、久し振りに腕がなるぜ」
ルードヴィッヒは、下卑た笑顔をした後、取り上げられていた武器を受け取った。
本選の1回戦が進む中、京太の順番が回ってくる。
闘技場の観戦者はすでに盛り上がっていた。
その中で、名前が呼ばれる。
「1回戦第5試合、東から登場するのは、闇ギルドの殺人鬼、ルードヴィッヒ」
出場者のコールに、歓声が一際おおきくなった。
「続いては、アトラ王国からの出場者、京太」
歓声が響く中、京太は手を上げて答えた。
その瞬間、ルードヴィッヒは襲い掛かる。
手に持っていた長剣を横に構え、両断するように振り抜いた。
京太は慌てて距離を取る。
――ビックリしたぁ・・・・・
京太は相手に抗議をする。
「まだ、開始の合図を聞いていないよ!」
ルードヴィッヒは何も答えず、笑いながら再び襲い掛かる。
だが、京太は完全に見切り、ギリギリで躱した。
「へへへ、貴様を殺せば、俺は自由になれるんだ」
ルードヴィッヒは魔法を使い、長剣に炎を纏わせた。
「貴様は、これで終わりだ!」
京太が、紙一重で避けると考え、ルードヴィッヒは、届かない距離で剣を振るう。
すると、剣に纏っていた炎が、京太に向って行った。
だが、京太の姿は、既にそこには無かった。
「何!?」
ルードヴィッヒは慌てて京太を探そうとする。
しかし、背中に剣を突きつけられている事に気付く。
「動くと切れますよ」
「いつの間に・・・・・」
「降参して下さい」
京太との力の差を感じ、黙って頷いた。
「わかって頂けて良かったです」
京太は、剣を背中から離した。
すると、ルードヴィッヒは躊躇わず、京太に切り掛かった。
「死ねぇぇぇぇぇ!」
襲い掛かるルードヴィッヒの剣を躱し、両腕を切り飛ばした。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」
剣を握ったままの両腕は、地面に転がった。
「貴方が、誰の命令を受けたかは分かります。
なので、そいつ等に伝えて下さい。
この先は容赦しないと」
京太は、それだけ伝えて闘技場から去った。
試合の後、ルードヴィッヒは担架で運ばれて行く。
途中で、男とすれ違う。
「申し訳ありません」
ルードヴィッヒは謝罪を口にしたが、男は蔑んだ目を向ける。
「役立たずが・・・・・」
男は、それだけ伝えて去って行った。
2回戦の組み合わせが決まり、今度の相手は、【ロンギヌス】という男だった。
――こいつも、ルドガー タガート王の手の者だろうな・・・・・
試合の時間になり、京太が闘技場に姿を現すと、
そこには、3メートルはありそうな男が長槍を携えて、待ち構えていた。
「貴様に恨みはない。
だが、これも仕方のない事」
ロンギヌスは、長槍を構える。
『開始!』
その声と同時に、長槍を頭上で回転させ始める。
「いくぞ!」
ロンギヌスが声を掛けるが、京太の姿が見当たらない。
「何!?」
慌てて周囲を探そうとした時、ロンギヌスの片足が無くなる。
体制を崩し、地面に倒れ込んだロンギヌスの首に剣が突き付けられた。
「声に出して、降参と告げて下さい」
ロンギヌスは、素直に降参を口にする。
その様子を見ていた男は、ため息を吐いた。
「やはり、私がやるしかないか・・・・・」
影から、ルードヴィッヒとロンギヌスに命令をしていた、
武装国家ハーグ、騎士団長【ゲイル カフカ】は、京太を見ながら呟いた。
準決勝の出番は、直ぐにやって来た。
闘技場に立ち、相手を待つ京太の前に、ゲイル カフカは姿を現す。
「あの時の陛下に対する無礼、忘れてはいない、この場で貴様に罰を与える」
ゲイル カフカの言葉に、京太も答えた。
「人の妻を奪い取ろうとする変質者に、無礼も何もないでしょ」
「貴様・・・・・余程、命が要らないらしいな・・・・・」
ゲイル カフカは、剣を抜き構えた。
同じく、京太も構える。
『開始!』
合図と共に歓声が響く。
だが、ゲイル カフカは、距離を保ったまま攻めて来なかった。
――結構、慎重なのかな・・・・・
その時、何者かが近づく気配を感じた。
京太は、その場から動き回避をするが、服には切られた跡が残っていた。
――魔法?・・・・・・それとも・・・・・・
京太の様子に、ゲイル カフカの口元が笑っていた。
――貴様には、分かるまい・・・・・
様子を伺う京太は、またも気配を感じ、その場を離れる。
だが、先程と違い、直ぐに違う気配が迫る。
――んっ、違う気配・・・・・
京太は、ある事に気が付いた。
それを確かめる為に、京太は敢えて立ち止まる。
「覚悟を決めたか」
ゲイル カフカは、静かに命令を下す。
「殺せ」
見えない気配は、一斉に京太に襲い掛かる。
――【戦争の神モンチュ】力を・・・・・・
京太の周りにオーラが現れ、全身を包んだ。
何者かの気配が近づいた瞬間、京太はオーラを解き放つ。
解き放たれたオーラに押され、見えなかった者達の魔法が解ける。
「やはり、思った通りですね」
闘技場には、京太とゲイル カフカの他に3人の男が姿を現した。
ゲイル カフカは、見えなくなる魔法『インビシブル』の使い手に京太を攻撃させていたのだ。
だが、魔法が解けた事で、観客からは抗議の声が響いた。
罵声を浴び続けるゲイル カフカは、耐え切れなくなり、思わず叫んだ。
「黙れ!黙れ!黙れ!
俺は、騎士団長だぞ、黙って見ていろ!」
ゲイル カフカの声は、罵声に消えた。
「お前達、何をしている、とっとと殺せ!」
騎士団長ゲイル カフカの醜態に、武装国家ハーグの記念大会は、違う意味で記念大会となり
ルドガー タガート王は、あまりの醜態に、歯を食いしばり、拳を握りしめたまま、
ゲイル カフカを睨み付けていた。
――絶対に許さん・・・・・
そんなルドガー タガート王の気持ちを無視して、
ゲイル カフカは、恥の上塗りとも言えるべき行動に出る。
「お前達、何をしている、奴を殺せ!」
その言葉に隠れて行動していた3人が京太に襲い掛かる。
だが、遠慮をしなくなった京太に勝てる筈も無く、3人の男は身体を真っ二つにされた。
「もう、貴方しか残って残っていませんよ」
「くっ・・・・・」
唇を噛み締めながら、剣を構え直す。
「き、貴様など、私一人で十分だ・・・・・・」
先程の光景が、目に焼き付いているのか、足が『ガタガタ』と震えていた。
中々一歩を踏み出せないゲイル カフカの元に京太が近づく。
全身が震え出したゲイル カフカの醜態に観衆からは、罵声と怒号が飛び交う。
「引っ込め!」
「恥さらし!」
「とっとと殺されろ!」
その雰囲気と恐怖に完全に飲み込まれたゲイル カフカは、叫び声をあげながら京太に向かった。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
隙だらけの攻撃を、京太は完全に見切り、剣を振り上げた。
「えっ・・・・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ゲイル カフカは両腕を失くした。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。




