イワの村
翌日、逃げ延びた【スナ村】の村長の元を訪ねる事になった。
村民達は、街の一角に建てられた簡易宿に住んでいる。
ここには、他に【イワ村】の住人達も住んでいた。
「私は、スナ村の村長の【イグナチウス】と申します」
「僕は、京太です。
今回の亜人達の騒動について知っている事があれば、話して頂けませんか」
「は、はい・・・・・」
――ん、・・・・・
怯えているのか、イグナチウスの様子に違和感を感じた。
イグナチウスの話は、突然襲われたとか、家を壊されたとか
そんな話ばかりで、何の収穫も無かった。
次に、イワの村の村長を訪ねた。
村長の名は、【エイリーク】と言った。
エイリークは、隣の兵士をチラチラと見て、汗を流している。
「わ、私には、どうしてこうなったのかわかりません・・・・・」
「本当ですか?」
「は、はい・・・・・」
「わかりました」
京太は、それだけ伝えると、面会を終えた。
ただ、2人の村長は、何か知っている事を確信した。
京太は、一旦その場を離れて、仲間達と合流した。
「京太さん、何かわかりましたか?」
「ううん、分からないけど、分かった事がある」
「どういう事ですか?」
ミーシャの質問に、京太は答えた。
「2人共、何かを隠している」
「吐かせますか?」
「いや、先に亜人達の元に向かおう」
京太達は、一旦、村人の事は放置し、亜人達の元に向かう事にした。
ツベスの街を出た京太達は、イワの村を目指す。
イワの村に近づいた時、周囲に京太達を狙う視線を気付く。
「狙われているよ」
京太の言葉に従い、全員が武器を手に持ち、攻撃に備えた。
馬車が細い道に入った時、両側の岩山から巨大な岩が、馬車に向かって転がって来た。
――不味いかも・・・・・・
急いで結界を張り、馬車へのダメージは回避出来たが、岩が道を塞いだ。
その時、大勢の狼人族が襲い掛かる。
今迄、人を殺さなかった事が嘘のように、完全に殺意を持っての襲撃だった。
だが、京太は仲間達に告げた。
「殺さないで!」
皆は頷くと、馬車から降りて狼人族に対峙する。
狼人族と言っても、人族に耳と尻尾が付いたような者が大半で、
稀に全身が毛に覆われている者がいる程度だ。
全身が毛に覆われている者は、他の狼人よりも力が強く、戦闘に特化している。
その特化した者達の集団が、今、京太達に襲いかかっていた。
手に槍を持ち、尻尾の先に刃の様な物を取り付け、武器だけでなく、尻尾でも攻撃を仕掛けて来る。
京太達は、その攻撃を避けつつ、狼人達の意識を刈って行った。
次々に倒されて、動かなくなる仲間達の様子に、残った狼人達は殺されたと勘違いをし、
牙を剥いて、襲いかかって来た。
その中の1人の狼人を押さえ付け、京太は伝える。
「仲間は死んでいません。
意識を失っているだけです」
「嘘を吐くな!」
まだ、暴れようとする狼人に根気よく説得を繰り返す。
「嘘なら、こんな面倒くさい事はしません」
「・・・・・わかった」
狼人は、大人しくなり、仲間達に戦闘を止めるように指示を送った。
京太達は、武器を取り上げた後、意識を失っていた者達を元に戻した。
「おお!」
狼人達は、仲間が生きていた事に喜んだ。
「本当だったんだな・・・・・」
「勿論だよ、嘘を吐く理由が無いからね」
改めて自己紹介をする。
「僕は京太、アトラ王の命令で此処に来た」
「そうだったのか、すまない。
私は、狼人族の戦闘隊長【バリー】だ」
「バリー、今回の件だけど、詳しい話を聞かせてくれないかな?」
「構わないが、まずは狼人族の族長に会ってくれ」
京太は、狼人達の様子から、今回の襲撃事件の原因が人間側にあると感じた。
バリーの案内の元、イワの村に到着すると、直ぐに族長と面会する事になった。
京太達が通された族長の元には、狼人族の族長の他に別種族の亜人が2人並んでいた。
「初めまして、僕は京太。
アトラ王の命令でこの件を治める為に来ました」
「儂は、狼人族の族長【ヴィクトル】と申します」
ヴィクトルの挨拶に続き、他の2人も挨拶をした。
「犬人族、族長【イサク】だ」
「虎人族、族長【アルヴァン】だ」
2人の挨拶が終わると、ヴィクトルが話す。
「京太殿は、今回の件、何処まで知っているのだ?」
「ツベスの街では、何も聞けませんでした」
「そうだろうな・・・・・・」
ヴィクトルは、ため息を吐く。
「一方の意見だと思ってもいいが、まずは、話を聞いてくれ」
「はい」
ヴィクトルから聞いた今回の件は、酷いものだった。
そもそもの原因は、クレイン ツベスの息子の【クラーク ツベス】にあった。
時折、クラーク ツベスは、父親の命令で各村を訪れていた。
その中で、亜人達の村に一番近いスナの村に立ち寄った時は、
ストレスを晴らす様に、亜人達を見つけては、暴言や暴力を振るっていたのだ。
そんな中、スナの村に泊まる事になったクラーク ツベスは、
街に来ていた狼人達に言いがかりをつけて捕らえた。
だが、反抗した狼人達に怒り、暴力を振るった後、
村にある屋敷の牢に捕らえて、再び暴行を加え殺した。
そして、女性の狼人に対しては、体を弄び、牢に閉じ込めた。
帰って来ない事を心配した狼人族の族長は、他の亜人達の力を借りて、山の捜索を始めた。
しかし、2日間探したが、手懸りすら見つから無かった。
その為、スナの村に行き、話を聞こうとしたが、誰も何も語らず、諦めかけた時、
露店の武器屋で、行方不明になった者の槍を見つけたのだ。
狼人族は、魔獣や獣に殺された時、身元が分かる様に槍に名前の1部を記している。
その為に、その槍が行方不明になった者の槍とわかった。
狼人は、直ぐに商人を問い詰めたが、中々口を割ろうとしなかった。
だが、力を加え、脅すと、領主の息子が屋敷に連れて行った事が判明した。
直ぐに里に戻り、族長に伝え、狼人族はスナの村に向かう。
そして族長は、村長に『領主の屋敷を調べて欲しい』と頼んだが、
相手にされず、武力で追い返そうとして来た。
怒った狼人族は反撃に出る。
但し、族長は殺さない事を絶対条件とした。
狼人族が暴れ回ると、村民達は慌てて村から逃げ出した。
全員が逃げた後、屋敷を調べると、地下牢から仲間の死体と
【エーリカ】という狼人族の娘が見つかり、エーリカに事情を聞いた。
「このままでは、いずれ我らは殺されてしまう」
そう思った族長は、領主のクレイン ツベスに話をする事にした。
だが、兵士達は、狼人族を恐れて、村には近寄らず、
周囲の犬人族や虎人族に『抵抗を止めるように伝えろ』と言って帰って行くだけだった。
3ヵ月待ったが、何も返事が無い事から、族長はイワの村を襲撃する事にした。
そして、襲撃の際、『話がしたければ領主を呼べ』と村民達に伝えて逃がした。
だが、それから1ヵ月過ぎても、何の返事も無かった。
その頃、エーリカが妊娠している事も分かり、狼人達は余計に怒りを覚えた。
そして、後1ヵ月待ち、返事が無かったら、亜人達の連合で、この地を奪う計画を立てた。
そこに、京太達がやって来たので、領主の送り込んだ偵察隊だと思い、襲撃をかけたのだ。
全ての概要を知った京太は、ヴィクトルに聞く。
「貴方達の求める条件を教えて下さい」
「儂らは、平和に暮らしたいだけだった。
そう思って今迄我慢してきたが、相手は図に乗る一方で、今回は死人も出てしまった。
儂は、二度とこの様な事は、起きて欲しくない、
それと同時に償いをしてもらわねば、死んだ者達に示しがつかん」
隣にいた、犬人族や虎人族の族長も頷いていた。
「わかった、僕に任せてくれないかな、決して悪いようにはしないから」
「お主に、何が出来ると言うのだ!」
ヴィクトルが、殺意の籠った視線を京太に向ける。
すると、後ろに控えて話を聞いていたミーシャが睨み付けた。
「誰に、向かってその様な真似をしているのだ!」
ミーシャに殺意を向けられたヴィクトルは、恐ろしさから、京太から目を反らした。
「もう一度、聞く、さっきのは何の真似だ!」
その言葉と同時に、京太の仲間達の鋭い視線が、ヴィクトルに集中した。
余りの恐ろしさに、ヴィクトルの尻尾は、先程までは上を向いていたが、今は完全に垂れていた。
「答えろ!」
3度目の威圧に、観念したのか、ヴィクトルは謝罪を口にした。
「申し訳御座いません」
「貴様の部族など、やり合えば全滅する事を理解しろ、そして平和に暮らしたいのならば逆らうな!」
その言葉に、3人の部族長は頭を下げた。
「貴方様にお任せ致します」
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